0℃より冷たくても凍らない水がある?
あります。凍るきっかけがないと、水は0℃以下でも液体のままでいられます。これを過冷却といいます。
冷凍庫でしばらく冷やしたペットボトルの水を、そっと取り出します。中身はまだ透明な液体のまま。ところが、ボトルの底をトンとたたいたとたん、白い氷がみるみる広がり、全体がシャーベットのようになってしまう。こんな動画を見たことがある人もいるかもしれません。
「水は0℃で凍る」と習いますが、実は0℃を下回っても、すぐに凍るとは限りません。この不思議な状態を「過冷却」といいます。
凍るには「きっかけ」がいる
水が氷になるためには、ばらばらに動き回っている水の分子が、決まった形にきちんと並ばなければなりません。ところが、この並び始めがなかなか難しいのです。
最初の小さな氷のかたまりができれば、あとはそれを足場にして、まわりの分子が次々と並んでいけます。この最初の足場を「核」と呼びます。ふだんの水が0℃を少し下回ったあたりで凍り始めるのは、水に混じったちりや、容器の表面の細かな傷などが、核づくりを手伝っているからです。
逆に、きれいな水を静かに冷やしていくと、核ができないまま0℃を下回ることがあります。これが過冷却です。18世紀の1724年、温度の単位「華氏」に名前を残す科学者ファーレンハイトが、この現象を初めて記録したとされています。不純物のないごく小さな水滴なら、−40℃前後まで凍らずにいられることが知られていて、実験室ではさらに低い温度で液体の水が観察されています。
たたくと凍り、でも全部は凍らない
ボトルをたたくと凍り始めるのは、その衝撃が核のできるきっかけになるからです。いったん核ができると、氷の結晶は水の中をすばやく広がっていきます。
ただし、ボトルの中身が一瞬でカチカチの氷になるわけではありません。水が凍るときには熱が出るため、その熱で温度が0℃近くまで上がってしまうのです。計算上、−10℃に過冷却した水がたたかれて凍るとき、すぐに氷になれるのは全体の1割あまり。残りは水のままで、細かな氷と混じり合うので、シャーベットのようになるのです。
空の上は過冷却の水だらけ
過冷却は、実験室の中だけの珍しい現象ではありません。空に浮かぶ雲の中では、0℃を下回っていても、凍っていない小さな水滴がたくさん漂っていることがよくあります。
こうした雲の中に氷の粒が生まれると、氷の粒はまわりの水滴から水分を奪いながら成長します。重くなった氷の粒が落ちてきたものが雪で、途中でとければ雨になります。雨や雪の多くは、このようにして生まれていると考えられています。
この仕組みが目に見える形で現れるのが、「穴あき雲」です。過冷却の水滴でできた雲の層を飛行機が通り抜けると、翼の端やプロペラの後ろで空気が膨らんで急に冷やされ、氷の粒ができることがあります。すると、その付近の水滴がまとめて氷の粒に変わって落ちていき、雲にぽっかりと穴が開くのです。2010年には、アメリカの研究者らが、飛行機がこうした穴をつくることを観測で確かめたと報告しています。
触れたとたんに凍る雨
過冷却の水滴がそのまま地上まで落ちてくると、ちょっと困ったことが起こります。木の枝や電線、道路などに当たった瞬間、衝撃をきっかけに凍りつくのです。この雨を「着氷性の雨」といい、物の表面を透明な氷がガラスのようにおおいます。こうしてできた氷は「雨氷(うひょう)」と呼ばれます。
雨氷は見た目には美しいのですが、重みで木の枝が折れたり、電線が切れたりすることもあります。空を飛ぶ飛行機にとっても、過冷却の水滴は要注意です。翼に当たって凍りつくと、翼の形が変わって性能が落ちるおそれがあるため、飛行機には氷を防ぐ装置が備えられています。