純粋な水は電気を通さない?
ほとんど通しません。水が電気を通すのは、中に溶けているイオンのおかげです。
お風呂場や洗面所では、ぬれた手で電気製品にさわらないように。子どものころから、そう言われてきた人は多いでしょう。水と電気は危険な組み合わせ。これは誰もが知る常識です。
ところが理科の世界では、「純粋な水は電気をほとんど通さない」と言われます。いったいどういうことなのでしょうか。カギを握るのは、水の中に溶けている、目に見えない小さな粒です。
電気を運ぶのは「イオン」
金属の中では、自由に動き回れる電子が電気を運びます。一方、水の中で電気を運ぶのは、電気を帯びた原子や分子、つまりイオンです。
たとえば食塩を水に溶かすと、塩化ナトリウムがプラスのナトリウムイオンと、マイナスの塩化物イオンに分かれます。そこに電圧をかけると、プラスのイオンはマイナス極へ、マイナスのイオンはプラス極へと動き出し、電気が流れるのです。物質が水に溶けるとイオンに分かれるというこの考え方は、19世紀後半にスウェーデンの化学者スヴァンテ・アレニウスが唱えたもので、彼は1903年にノーベル化学賞を受けています。
水道水や川の水、そして私たちの汗には、ナトリウムやカルシウム、マグネシウムなどのイオンが溶けています。だから電気を通すのです。
混じりけのない水は「ほぼ絶縁体」
では、イオンをとことん取り除いた水はどうなるでしょうか。半導体の工場などでは、不純物を極限まで取り除いた「超純水」が使われています。その電気の通しやすさ(電気伝導率)は、25℃で1センチあたり約0.055マイクロジーメンス。一般的な飲み水は200〜800マイクロジーメンスほどなので、その数千分の1から1万分の1あまりしかありません。海水と比べれば、およそ100万分の1です。
それでも、電気伝導率はゼロにはなりません。水の分子のごく一部は、自分自身で水素イオンと水酸化物イオンに分かれているからです。25℃の水では、その割合は分子およそ5億5000万個に1個ほど。このわずかなイオンが、超純水のかすかな電気の通り道になっています。
純粋な水は長続きしない
ただし、超純水の「電気を通さない」状態は、とてももろいものです。空気にふれるだけで二酸化炭素が溶け込み、イオンが生まれて、電気を通しやすくなってしまいます。蒸留水を空気中に置いておくと、電気伝導率が10〜20倍ほどに上がることもあるといいます。
ほんの少しの塩が混じるだけでも、数値ははっきり変わります。超純水の世界では、わずか0.1ppb、つまり100億分の1の割合で食塩が混じっただけでも、測定値に違いが出るほどです。
理科の実験で水を電気分解するとき、水に水酸化ナトリウムなどを少し溶かすのも、このためです。そのままの水では電気が流れにくいので、イオンを加えて電気の通り道をつくっているのです。
それでも、水まわりの電気は危険
では、純粋な水なら、ぬれた手で電気にさわっても安全なのでしょうか。答えは、まったくそうではありません。
身のまわりの水は、どれもイオンを含んでいます。仮に純粋な水だったとしても、手についた瞬間に、皮膚の表面の汗や汚れが溶け込みます。そもそも私たちの体の中を満たしている液体が、塩分を含んだ電気を通しやすい液体です。皮膚がぬれていると電気が体に入り込みやすくなり、感電の危険は大きく高まります。「純粋な水は電気を通しにくい」は、水まわりで電気を気軽に扱ってよい理由にはならないのです。