タグから探す

    アルキメデスの「エウレカ」は本当?

    風呂の逸話は約200年後に書かれたもので、真偽は不明です。ただし浮力の原理そのものは本物です。

    200年

    アルキメデスの死から、風呂の逸話が書き残されるまでのおよその年数

    ひらめいた瞬間に叫ぶ言葉として、「エウレカ!」は世界中で知られています。古代ギリシア語で「見つけた!」という意味です。風呂の中で大発見をした古代の天才アルキメデスが、うれしさのあまり裸のまま街を駆け抜けながら叫んだ、という逸話でおなじみでしょう。

    でも、この話はどこまで本当なのでしょうか。調べてみると、物語の出どころにも、その「解き方」にも、意外な疑問が見えてきます。

    王冠の謎と、あふれた風呂

    物語の舞台は、紀元前3世紀のシチリア島の都市シラクサです。王のヒエロン2世は、神殿に捧げるための金の冠を職人に作らせました。ところが、職人が金の一部をくすねて、代わりに銀を混ぜたのではないかという噂が立ちます。冠を壊さずに確かめる方法はないか。王はこの難題をアルキメデスに託しました。

    ある日、アルキメデスが湯船に入ると、体が沈むにつれて湯があふれ出しました。これを見て解き方をひらめいた彼は、湯船から飛び出し、裸のまま家へ走りながら「エウレカ!」と叫んだといいます。

    木の桶の湯船につかるアルキメデスを描いた彩色木版画。右下の床に王冠が置かれている
    風呂に入るアルキメデスを描いた16世紀の木版画。右下の床には王冠が描かれています。出典: 作者不明 / Public domain / Wikimedia Commons

    物語によれば、彼の解き方はこうです。冠と同じ重さの金のかたまりと銀のかたまりを用意し、水をなみなみと張った容器に順番に沈めて、あふれる水の量を比べる。銀は同じ大きさで比べると金より軽いので、同じ重さなら体積が大きくなります。冠は金のかたまりより多くの水をあふれさせたので、銀が混ざっていることがわかった、というのです。

    200年後に書かれた逸話

    この話を伝えているのは、古代ローマの建築家ウィトルウィウスが紀元前1世紀後半に書いた『建築について』という本です。アルキメデスが亡くなったのは紀元前212年ごろなので、逸話が書き残されたのは、出来事からおよそ200年もあとということになります。

    アルキメデス自身の著作には、この冠の話は出てきません。さらに後の時代の著述家プルタルコスも風呂の発見に触れていますが、短く紹介しているだけです。どちらの書き方からも、この話は当時すでによく知られた言い伝えになっていたことがうかがえます。実際にあった出来事なのか、偉人にまつわる伝説として語り継がれるうちに形ができあがったのか、確かめる方法はありません。

    ガリレオの疑問

    この逸話には、もうひとつ大きな疑問があります。あふれた水の量を比べる方法では、差が小さすぎて見分けられないのではないか、というものです。

    ある試算では、重さ1000グラムで銀が3割混ざった冠と、同じ重さの純金のかたまりを、口の直径が20センチの容器に沈めて比べても、水面の高さの差はわずか0.41ミリほど。あふれる水を集めて量るにしても、当時の道具でこの違いを正確に読み取るのは至難の業です。

    1586年、22歳のガリレオ・ガリレイはこの点に目をつけ、『小さな天秤』という小論の中で、ウィトルウィウスの伝える方法は「いわば大ざっぱなもので、科学の精密さからはほど遠い」と書きました。そして、もっと確実な方法を提案します。

    白いあごひげをたくわえ、白い襟のついた黒い服を着て、望遠鏡を手にした年配の男性の肖像画
    晩年のガリレオ・ガリレイ。ユストゥス・サステルマンスが1636年に描いた肖像です。出典: Justus Sustermans / Public domain / Wikimedia Commons

    天秤の片側に冠を、反対側に同じ重さの純金をつるしてつり合わせ、そのまま両方を水に沈めるのです。銀が混ざった冠は体積が大きいぶん、水から受ける浮力も大きくなり、天秤は純金の側に傾きます。先ほどの試算と同じ条件なら、その差はおよそ13グラム分。これならはっきり見分けられます。ガリレオは、アルキメデス自身が見つけた原理に基づくこの方法こそ、彼が実際に使ったものだろうと考えました。

    浮力の原理は本物

    風呂の逸話の真偽はさておき、アルキメデスが浮力の法則を見つけたことは確かです。彼の著作『浮体について』には、液体に沈めた物体は、押しのけた液体の重さに等しい力で押し上げられる、という原理が書かれています。いわゆる「アルキメデスの原理」です。

    何万トンもある鉄の船が海に浮かぶのも、熱気球が空に昇るのも、この原理で説明できます。2000年以上前に見つかった法則が、今も変わらず世界を動かしているのです。

    次はこちらをどうぞ

    1. 科学約4分原子の中はスカスカ?机も、空気も、私たちの体も、すべては原子でできています。その原子の中をのぞくと、想像とはまるで違う景色が広がっていました。
    2. 科学約4分炭酸のシュワシュワの正体は?ふたを開けた瞬間のプシュッという音、グラスの底から立ちのぼる細かな泡。あの泡は、いったいどこで生まれているのでしょう。
    3. 科学約4分ガラスは液体?「ヨーロッパの古い教会の窓ガラスは、下のほうが厚い。ガラスはゆっくり流れる液体だから」。よく聞くこの話、本当なのでしょうか。
    4. 科学約4分鉄の船はなぜ浮く?鉄くぎ1本は水に落とせばすぐに沈むのに、何万トンもの鉄でできた船は海に浮かびます。その差を生んでいるのは、鉄そのものではなく「形」でした。
    5. 科学約4分氷はなぜ滑る?凍った道で足をとられた経験は、誰にでもあるはず。あまりに身近なこの現象の理由は、実は物理学者たちが170年以上も議論を続けている難問です。
    6. 科学約4分鉛筆の芯は鉛?名前に「鉛」の字があり、英語でも芯を「lead(鉛)」と呼ぶ鉛筆。でも、その黒い芯の正体をたどると、16世紀のイギリスの羊飼いたちに行き着きます。
    7. 科学約4分0℃より冷たくても凍らない水がある?冷凍庫から出したペットボトルの水を軽くたたくと、目の前でみるみるシャーベットに。手品のようなこの現象には、水のちょっと意外な性質が隠れています。
    8. 科学約4分純粋な水は電気を通さない?「ぬれた手でコンセントにさわってはいけない」と教わる一方で、「純粋な水は電気を通さない」という話もあります。いったいどちらが本当なのでしょうか。