鉄の船はなぜ浮く?
船体の中に空気をたっぷり抱え、全体では水より軽いからです。押しのけた水の重さが浮く力になります。
鉄のくぎを水に落とすと、あっという間に底へ沈みます。鉄の重さは、同じ大きさの水のおよそ7.9倍。どう考えても水に浮く材料ではありません。
ところが港に行けば、全長数百メートルの鉄の船が、何千個ものコンテナを積んだまま、ぷかりと浮かんでいます。小さなくぎは沈むのに、巨大な鉄のかたまりのような船が沈まないのは、なぜなのでしょうか。
浮く力は「押しのけた水の重さ」
水の中に物を入れると、その物は水を押しのけます。このとき物は、押しのけた水の重さと同じだけの力で、上向きに押し返されます。これが浮力で、古代ギリシャのアルキメデスが見つけたとされる「アルキメデスの原理」です。
鉄のくぎが沈むのは、くぎが押しのける水が、くぎの体積ぶんしかないからです。体積が小さいので押しのける水も少なく、浮力が重さに負けてしまいます。
では、同じ1キログラムの鉄を薄く延ばして、ふたのない箱の形にしたらどうでしょう。水に浮かべると、箱は鉄の部分だけでなく、中の空気のぶんまで水を押しのけます。1リットルの水の重さは約1キログラムですから、箱が1リットルより大きければ、押しのけた水の重さが鉄の重さを上回り、箱は浮かびます。材料は同じでも、形を変えるだけで沈む鉄が浮く鉄に変わるのです。
船は「空気ごと」で軽い
本物の船も、この箱と同じです。鉄の板でできた船体の中は、荷物や機械を積んでもなお、大部分が空気。鉄と空気と積み荷をひっくるめた全体の重さを、水面より下の船体の体積で割ると、水より軽くなります。
船が沈むのは、この関係が崩れたときです。船体に穴があいて中に水が入ると、空気のあった場所が水で埋まり、押しのけている水の量が減ってしまいます。大きな船の内部が、いくつもの壁で小部屋に仕切られているのは、どこかに穴があいても水が全体に広がらないようにするためです。
船の大きさを表すのに「排水量」という言葉が使われるのも、この原理と関係しています。船が押しのけている水の重さは、船そのものの重さと等しいからです。
鉄は浮かないと思われていた
いまでは当たり前の鉄の船も、はじめから信用されていたわけではありません。1787年、イギリスの製鉄業者ジョン・ウィルキンソンは、錬鉄でつくった荷船「トライアル号」をセヴァーン川に浮かべました。集まった人々の多くは、鉄の船など沈むに決まっていると思っていたといいます。
トライアル号はきちんと浮かび、その月のうちに20トンあまりの鉄を積んで、バーミンガムまで運びました。その後、19世紀を通じて船の材料は木から鉄、さらに鋼鉄へと移り変わり、木造船ではつくれないほど大きな船が造られるようになりました。
船の横腹に描かれた「限界線」
浮くとはいえ、荷物を積めば積むほど船は深く沈みます。19世紀のイギリスでは、荷物を積みすぎた船が嵐で次々に沈み、多くの船員が命を落としていました。これに抗議したのが、政治家のサミュエル・プリムソルです。彼の運動もあって、1876年の法律で、船体に「ここまでしか沈めてはいけない」という線を描くことが義務づけられました。この印は、いまも「プリムソル・マーク」と呼ばれています。
面白いのは、線が1本ではないことです。海水は塩が溶けているぶん真水より重く、同じ船でも海ではやや浮き上がり、川や湖では深く沈みます。さらに、海が荒れやすい冬には、穏やかな夏よりも余裕をもって浅めに積む必要があります。そのため船には、夏の海、冬の海、熱帯の海、淡水などに分けて、いくつもの線が描かれているのです。