タグから探す

    カニカマは日本生まれ?

    はい。1970年代前半に日本で生まれました。今ではフランスなど世界各地で食べられています。

    赤と白のしま模様に、細く裂ける身。カニカマは、サラダやお弁当、手巻き寿司の具として、すっかり食卓になじんでいます。ところがその中身は、カニではありません。主な原料は、スケトウダラなどの白身魚をすりつぶした「すり身」です。

    かまぼこやちくわのように、すり身を練って加熱した食品を「練り製品」と呼びます。カニカマは、その練り製品の一種です。海外でもよく見かけるので、外国生まれだと思っている人もいるかもしれませんが、生まれは日本。しかも誕生のきっかけは、カニとは関係のない研究でした。

    人工クラゲの「失敗作」から

    カニカマを最初に商品化したのは、石川県七尾市の水産加工会社スギヨです。1970年代の初め、日本と中国の関係の影響で、中華料理に使う中国産クラゲの輸入が大きく減りました。そこでスギヨは、クラゲの代わりになる「人工クラゲ」の開発に取り組みます。材料には、コンブなどの海藻に含まれるアルギン酸が使われました。

    見た目や歯ごたえはクラゲらしく仕上がったものの、しょうゆを加えると食感が崩れてしまうなど、商品にはなりませんでした。ところが、刻んだ試作品を口にした当時の経営者が、その食感がカニの身に似ていることに気づきます。

    これをヒントに、開発チームは本業のすり身を使ってカニの身を再現することにしました。こうして1972年に発売されたのが「珍味かまぼこ・かにあし」です。カニの脚の身をほぐしたような、フレーク状の商品でした。

    白い皿の左に棒状のカニカマ、右に表面が赤く中が白いほぐし身タイプのカニカマが盛られている
    日本で売られているカニカマ。左が細く裂けるスティックタイプ、右がほぐし身タイプです。出典: Ocdp / CC0 / Wikimedia Commons

    スティック型は広島から

    いまおなじみのスティック型を広めたのは、広島市の大崎水産です。1974年9月、すり身を細い筋状にして束ね、表面を赤く色づけした「かにスチック」(のちに「フィッシュスチック」)を発売しました。

    ほかにも「うちが先だった」と名乗る会社があり、「元祖」をめぐる話は一つにまとまっていません。ただ、カニカマが1970年代前半の日本で次々に生まれた食品であることは、どの説でも変わりません。

    大崎水産はスティック型の特許を出願しましたが、業界の反対もあって認められませんでした。その結果、多くの会社が自由に作れるようになります。1979年には山口県の食品機械メーカー、ヤナギヤがカニカマの製造装置を開発し、のちに世界でおよそ7割のシェアを占めるまでになりました。

    名前は「かに風味かまぼこ」

    カニが入っていない以上、袋に「かに」とだけ書くわけにはいきません。1990年には、国の規格(日本農林規格)に「風味かまぼこ」という区分が設けられました。カニカマは、「風味かまぼこ(かに風味)」のように表示するよう定められています。

    作り方は、すり身にカニのエキスや香料で風味をつけて薄いシート状に焼き、細かい切れ目を入れてから束ねたり巻いたりして、表面を赤く色づけするというものです。筋に沿って裂けるあの食感は、この切れ目が生み出しています。

    フランスでは「スリミ」

    カニカマは1970年代の半ばから海外へも輸出され、アメリカでは「イミテーション・クラブ」などの名前で広まりました。とくに人気が高いのがヨーロッパで、なかでもフランスでは、カニカマのことを「スリミ」と呼ぶほど定着しています。

    かまぼこメーカーの紀文食品によると、2021年の時点で、日本とフランスのカニカマ消費量はどちらも年間約5万トン。フランスの人口は日本の半分ほどですから、1人あたりではフランスの人のほうがたくさん食べている計算になります。世界全体の消費量は、年間50万トンを超えると推定されています。

    灰色の台の上に、オレンジ色の筋が入った太いスティック状のカニカマ3本と、細く裂いたカニカマを盛ったガラスの小皿が置かれている
    スティック状とほぐし身のカニカマ。フランスでは、こうした製品が「スリミ」の名で親しまれています。出典: Frrrrred / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

    いまではアジアやヨーロッパ、アメリカなど世界各地で作られ、東欧のリトアニアには世界最大級のカニカマ工場もあります。人工クラゲの失敗から生まれた小さな練り製品は、日本を代表する「発明食品」として、世界中の食卓に広がったのです。

    次はこちらをどうぞ

    1. 食べもの約4分ナポリタンはイタリア料理?ケチャップで炒めた、赤くて甘いスパゲッティ。名前はイタリアの港町ナポリから来ていますが、本場で注文しようとすると、きっと困ったことになります。
    2. 食べもの約4分シーザーサラダのシーザーとは誰?ロメインレタスに粉チーズとクルトン。おなじみのサラダに名を残す「シーザー」は、あの有名なローマの英雄なのでしょうか。舞台は、意外な国境の町でした。
    3. 食べもの約4分納豆はいつから食べられている?朝の食卓でおなじみの、糸を引くあの豆。その始まりをたずねると、名だたる武将や聖人の名前がつぎつぎに出てきます。どこまで信じてよいのでしょう。
    4. 食べもの約4分ポテトチップスの誕生秘話は本当?気難しい客と、腹を立てた料理人。ポテトチップスの誕生には、つい人に話したくなる逸話があります。ところが古い料理書をめくってみると、話は少しややこしくなります。
    5. 食べもの約4分寿司はもともと保存食だった?新鮮なネタに酢飯、職人の握る一貫。いまの寿司からは想像しにくいのですが、千年以上前の「すし」は、見た目も味もまったく違う料理でした。
    6. 食べもの約4分チョコレートはもともと飲み物だった?板チョコを割ったときの、パキッという軽やかな音。カカオと人類の長いつき合いからすると、あの姿はつい最近あらわれた新顔にすぎません。
    7. 食べもの約4分ラーメンのルーツはどこ?日本で初めてラーメンを食べたのは、あの有名なご老公だった。そんな話を聞いたことはありませんか。実は近年、その記録をさらにさかのぼる史料が見つかっています。
    8. 食べもの約4分天ぷらはポルトガルから来た?寿司と並ぶ、和食の代表選手の天ぷら。ところがその名前の響きは、どこか日本語ばなれしています。ルーツをたどると、南蛮船と、ある将軍の死をめぐる誤解に行き着きます。