氷はなぜ水に浮く?
凍ると水の分子がすき間の多い結晶をつくり、体積が約1割増えて軽くなるからです。
9%
冷たい飲み物に氷を入れると、氷はぷかりと浮かんで、グラスの上のほうに集まります。あまりに見慣れた光景なので、不思議に思うことはほとんどないかもしれません。
けれども、これは自然界ではかなりの例外です。ろうそくのろうや多くの金属は、固体になると液体のときより縮んで重くなり、自分の溶けた液体の中に沈んでしまいます。固体が液体に浮かぶ水は、ちょっとした変わり者なのです。
凍ると、ふくらむ
水が凍ると、体積はおよそ9%、つまり1割近く増えます。重さは変わらないまま体積だけが増えるので、同じ大きさで比べると氷のほうが軽くなります。1立方センチメートルあたりの重さ(密度)は、0℃の水がほぼ1グラムなのに対し、氷は約0.92グラム。この差が、氷を浮かせる力の正体です。
冬の寒い夜に水道管が破裂したり、水をいっぱいに入れたペットボトルを凍らせるとパンパンにふくらんだりするのも、同じ理由です。岩のすき間に入りこんだ水が凍ってはふくらむことをくり返し、長い年月をかけて岩を割っていくこともあります。
すき間だらけの結晶
では、なぜ水は凍るとふくらむのでしょうか。カギを握るのは、水の分子どうしをつなぐ「水素結合」という結びつきです。
水の分子は、酸素原子1個に水素原子2個がくっついた、くの字形をしています。分子の中で酸素の側はわずかにマイナス、水素の側はわずかにプラスの電気を帯びているため、となり合う分子どうしが引き合います。液体の水の中では、この結びつきがつながっては切れ、切れてはつながりを猛烈な速さでくり返し、分子は動き回りながら比較的ぎっしりと詰まっています。
ところが凍ると、それぞれの分子はまわりの4つの分子と手をつなぎ、決まった向きにきちんと並びます。そうしてできあがるのが、六角形の網目をもつ結晶です。この網目は、中にたくさんのすき間をかかえた、すかすかの構造。整列したせいで、かえって広い場所をとってしまうのです。雪の結晶が六角形になるのも、この並び方に由来しています。
4℃の水がいちばん重い
水の変わった性格は、凍る前から始まっています。ふつうの液体は冷やすほど縮んで重くなりますが、水が最も重くなるのは0℃ではなく約4℃。それより冷えると、氷に似たすき間の多い並び方が液体の中にも少しずつ増え、かえって軽くなっていくのです。
このおかげで、冬の湖では不思議なことが起こります。冷たい空気で表面の水が冷やされると、重くなって底へ沈み、代わりに下の水が上がってきます。湖全体が4℃近くまで冷えると、それ以上冷えた水は軽いので表面にとどまり、やがて氷になります。浮かんだ氷はふたのように湖をおおい、下の水を寒さから守ります。
こうして、厚い氷の下でも湖の底には4℃前後の水が残り、魚たちは冬を越すことができます。もし氷が水より重かったら、湖は底から凍りついていき、生き物にとってずっと厳しい世界になっていたかもしれません。
「氷山の一角」は本当に一角
氷と水の密度の差は、それほど大きくありません。そのため、氷は浮くといっても、体のほとんどを水の中に沈めています。真水に浮かべた氷なら、水面から顔を出すのは1割足らず。海に浮かぶ氷山は、海水が真水より少し重いぶんだけ浮きやすくなりますが、それでも9割近くは海の中に隠れています。
「氷山の一角」という言葉は、見えているのは全体のほんの一部にすぎない、という意味で使われます。この言い回しは、たとえとしてだけでなく、物理としてもかなり正確なのです。