無重力でろうそくを灯すとどうなる?
炎は上へ伸びずに丸くなり、淡い青色になります。空気の流れがないため、静かにゆっくり燃えます。
ろうそくに火をつけると、炎はしずくを逆さにしたような形で、まっすぐ上へ伸びます。ろうそくを横に傾けても、炎は上を向いたままです。あまりに当たり前すぎて、炎とはそういう形のものだと思ってしまいます。
けれども、炎が上を向くのは、実は地球に重力があるからです。重力のない宇宙でろうそくを灯すと、炎はまったく違う姿を見せます。
地上の炎がとがるわけ
ろうそくの炎の中では、熱で溶けて気体になったろうが、まわりの空気中の酸素と結びついて燃えています。燃えてできた熱いガスは、まわりの空気より軽いので、上へと昇っていきます。すると、空いたところへ下から新しい空気が流れこみ、炎に酸素を送り届けます。
この、暖かい空気が昇り冷たい空気が入ってくる流れ(対流)が、炎を上へ引き伸ばし、細長いしずく形にしているのです。
炎が黄色く明るく見えるのは、燃えきらずにできた「すす」の細かな粒が熱せられて光っているためです。地上では、すすの粒も上昇する流れに運ばれ、炎の上のほうで明るく輝きます。
宇宙では、丸くて青い炎に
宇宙ステーションの中のように重力がほとんど感じられない「微小重力」の環境では、熱いガスも冷たい空気も、重さの違いで動くことがありません。対流が起きないので、炎は上へ引き伸ばされず、芯のまわりに丸く広がります。
酸素は、空気の流れに運ばれるのではなく、分子がゆっくりとしみこむように広がる「拡散」によって、あらゆる方向から少しずつ届きます。そのため炎は、芯を包む球や半球の形になります。
色も変わります。すすができにくく、できたすすも燃えつきやすいため、黄色い輝きが弱まり、淡い青色の炎になるのです。
宇宙での実験では45分燃えた
実際に宇宙でろうそくを灯した実験があります。1992年、スペースシャトル・コロンビア号の飛行では、実験用の密閉箱の中でろうそくの炎が観察されました。このとき炎が燃え続けたのは、たいてい60秒足らずでした。箱の中の酸素が限られていたためと考えられています。
続いて1990年代にロシアの宇宙ステーション「ミール」で行われた実験では、炎は直径1.5センチほどの小さな半球形で、点火直後こそ黄色く光ったものの、やがて淡い青色になりました。燃え続けた時間は、長いものでは45分に達しました。消える直前には、炎が1秒に1回ほどのリズムで、ゆらゆらと大きさを変える様子も観察されています。
対流がない環境では、燃えてできた二酸化炭素や水蒸気も、炎のまわりから運び去られません。新しい酸素が届くのは拡散だけが頼りなので、炎は地上よりずっと静かに、ゆっくりと燃えるのです。
地上で無重力をつくる
宇宙に行かなくても、短い時間なら無重力をつくることができます。実験装置を高いところから落とせば、落ちているあいだは中のものが重さを感じなくなるからです。
日本では1991年から2003年まで、北海道上砂川町に、閉山した炭鉱の深い立坑を利用した「地下無重力実験センター」がありました。カプセルを落下させて約10秒間の無重力をつくり、燃焼の実験などが行われました。
宇宙船の中での火災は、命にかかわる大事故です。無重力の中で火がどう燃え広がり、どうすれば消せるのかを知ることは、宇宙開発の安全を守るために欠かせない研究なのです。また、重力にじゃまされない単純な形の炎を調べると、燃焼のしくみそのものを詳しく確かめられます。地上のエンジンや炉で、燃料をすすを出さずにむだなく燃やすための研究にも役立っています。