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    鏡は本当に左右を逆に映している?

    いいえ。鏡が逆にしているのは前と後ろ。左右が逆に見えるのは、私たちの見方のせいです。

    鏡の前で右手を上げると、向こうの自分は左手を上げているように見えます。本の表紙を映せば文字は裏返しになり、とても読みにくい。鏡は左右を逆にする。多くの人がそう思っています。

    でも、少し立ち止まって考えてみてください。鏡にとって、左右と上下はどちらも同じ「鏡の面にそった方向」のはずです。それなのに、頭が下、足が上に映ることはありません。鏡はなぜ、左右だけをえこひいきするのでしょうか。この素朴な疑問は、昔から科学者や哲学者のあいだでも議論の種になってきました。

    鏡がひっくり返すのは「前後」

    鏡の前に立って、右手で右のほうを指してみてください。鏡の中の手も、同じ右側を指しています。上を指せば鏡の中の指も上、下を指せば下。実は、左右も上下も、鏡はそのまま映しているのです。

    では、何が変わっているのでしょう。鏡に向かって指を前へ突き出すと、鏡の中の指はこちらに向かってきます。鏡が反対にしているのは、鏡の面に垂直な方向、つまり前と後ろなのです。

    前後がひっくり返るとどうなるか。わかりやすいのが手袋です。右手用のゴム手袋を裏返すと、左手用の手袋になります。鏡の中の像も、これと同じように前後が裏返った姿をしています。だから右手の像は、形としては左手と同じになるのです。

    横に置かれた鏡のすぐそばでうずくまる子猫と、鏡に映ったその姿が並んでいる
    鏡のすぐ横にいる子猫と、その鏡像。鏡の面に垂直な方向だけが反転するので、鏡を境に模様まで対称に並んで見えます。出典: Paul Reynolds / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons

    「左右逆」は頭の中で起きている

    それなら、なぜ私たちは「左右が逆」と感じるのでしょうか。それは、鏡の中の像を「こちらを向いて立っている、もう一人の人」として見てしまうからです。

    誰かと向かい合うとき、私たちは相手がくるりと振り返って、こちらを向いたと考えます。体を縦の軸のまわりに半回転させるので、上下はそのまま、左右だけが入れ替わる。鏡の像を「振り返った自分」と見なしたとたん、像の右手にあたるのが自分の左手、という関係ができあがるのです。

    でも、実際の鏡の中の人は振り返っていません。前後が裏返っているだけです。縦の軸で振り返るという見方を選んでいるのは、私たちの体が左右はほぼ対称で、上下はまったく違う形をしているからだと考えられます。

    試しに、鏡の前で横向きに寝転んでみましょう。頭が右、足が左になるように寝ると、鏡の中の自分も頭が右、足が左にあります。このとき、上になった手は鏡の中でも上にあります。それでも、鏡の中の人は「反対の手を上げている」ように感じるはずです。逆に感じられるのは、部屋の左右ではなく、体を基準にした左右だということがわかります。

    文字が裏返るのも同じしくみ

    本の表紙を鏡に映すと文字が裏返るのも、鏡が勝手に文字を裏返したわけではありません。鏡に見せるために、私たちが本を手でくるりと回して、表紙を鏡へ向けたからです。縦の軸で回せば左右が、横の軸で回せば上下が逆になった文字が映ります。

    その証拠に、透明なシートに文字を書き、自分から読める向きのまま鏡の前にかざしてみてください。鏡の中の文字も、ちゃんと正しく読めます。シートを回していないので、文字は裏返らないのです。

    反対に、鏡を2枚使うと「裏返らない自分」に会えます。2枚の鏡を直角に合わせて、その合わせ目をのぞきこんでみてください。右手を上げると、鏡の中の人は、その人にとっての右手を上げます。2回の反射で前後の裏返しが打ち消され、他人から見た自分と同じ姿が映るのです。見慣れた鏡の顔とどこか違って見えて、少し落ち着かない気分になるかもしれません。

    この性質は、実生活でも利用されています。欧米などの救急車には、車体の前に「AMBULANCE」という文字が裏返しに書かれていることがあります。前を走る車の運転手が、バックミラー越しに見たときに正しく読めるようにするための工夫です。

    イギリスの黄色と緑の救急車。車体上部には普通の向きで、ボンネットには左右反転した向きで「AMBULANCE」と書かれている
    イギリスの救急車。車体の上部には普通の向きで、ボンネットには左右を反転させて「AMBULANCE」と書かれています。出典: Oxyman / CC BY 2.5 / Wikimedia Commons

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