温度に上限はある?
下限は−273.15℃ですが、上限ははっきりしません。今の物理学で扱える目安は約10の32乗度です。
5.5兆度
真冬の北海道や南極では、気温が−30℃、−50℃と下がっていきます。でも、温度はどこまでも下がるわけではありません。−273.15℃。これより低い温度はない、という「底」があるのです。
では反対に、熱いほうはどうでしょう。温度には「これ以上は上がらない」という天井があるのでしょうか。
温度の正体は「粒の動き」
温度の上限を考えるには、まず温度とは何かを知っておく必要があります。あらゆる物質は、原子や分子といった小さな粒でできていて、その粒はたえず飛び回ったり、震えたりしています。温度とは、この粒の動きの激しさを表すものさしです。熱いものほど粒は激しく動き、冷たいものほど動きはおとなしくなります。
冷やしていくと粒の動きはどんどん小さくなり、やがてこれ以上は小さくならない状態に近づきます。その温度が「絶対零度」、−273.15℃です。19世紀イギリスの物理学者ケルビン卿(ウィリアム・トムソン)は、この絶対零度を出発点とする温度の目盛りを提案しました。今では、その名をとった「ケルビン(K)」が温度の国際的な単位になっています。目盛りの幅は℃と同じなので、0Kが−273.15℃にあたります。
絶対零度そのものには、どうやってもたどり着けないと考えられています。それでも実験室では、絶対零度よりわずか1000億分の4度ほど高いだけの、極低温がつくられています。
太陽の中心の30万倍を超える熱さ
一方、熱いほうには底のような壁が見当たりません。粒の速さには「光より速くは進めない」という限界がありますが、光の速さに近づいた粒は、速さがほとんど増えなくなるかわりに、エネルギーをいくらでも蓄えられるようになります。そのため、光速の壁は温度の天井にはならないのです。
では、人類はどこまで熱いものをつくれたのでしょうか。その記録を持っているのが、スイスとフランスの国境にある欧州原子核研究機構(CERN)の巨大な加速器、LHCです。2012年、LHCのALICE実験のチームは、鉛の原子核どうしを光速近くまで加速して衝突させ、約5.5兆度という温度をつくり出したと発表しました。約1600万度とされる太陽の中心の、30万倍を超える熱さです。この温度は、人工的につくられた最も高い温度として、ギネス世界記録にも認定されました。
これほどの高温では、原子核をつくる陽子や中性子さえ形を保てず、その中身であるクォークとグルーオンという粒がばらばらになった「クォーク・グルーオン・プラズマ」という状態になります。宇宙が誕生した直後のごく短いあいだ、宇宙全体がこのような熱いスープで満たされていたと考えられています。それまでの記録は、2010年にアメリカのブルックヘブン国立研究所の加速器RHICで測られた、約4兆度でした。
物理学が手を上げる温度
では、さらにエネルギーを注ぎ込めば、温度はどこまでも上がるのでしょうか。理論の上で一つの目安とされているのが、「プランク温度」と呼ばれる約1.4×10の32乗ケルビン、1のあとに0が32個並ぶ数の1.4倍ほどの温度です。
これは、重力の効果と、ミクロの世界を支配する量子の効果が、どちらも無視できなくなるほどのエネルギーに相当します。そこでは、熱の放射からごく小さなブラックホールが生まれては蒸発していく、といった状況まで考えなければならず、今の物理学の理論では、何が起きるかを説明できなくなります。宇宙が生まれた直後、ほんの一瞬だけ、宇宙はこのくらいの温度だったと考えられています。
つまりプランク温度は、温度の天井が見つかったというより、「ここから先は、今の物理学では語れない」という境界線なのです。その先に何があるのかを知るには、重力と量子の世界を一つにまとめる、新しい理論が必要だとされています。