鉛筆の芯は鉛?
鉛は入っていません。芯は黒鉛(炭素)と粘土を混ぜて焼き固めたものです。
17種類
「鉛筆」という名前を素直に読めば、鉛でできた筆、ということになります。英語でも鉛筆の芯は「lead(レッド)」、つまり鉛と呼ばれています。子どものころ、「鉛筆をなめると体に悪い」と言われた覚えがある人もいるかもしれません。
ところが、鉛筆の芯には鉛はまったく入っていません。それどころか、鉛筆の芯が鉛だったことは、歴史上一度もないのです。では、なぜこんな名前がついたのでしょうか。
羊の目印になった黒い石
物語の舞台は、イギリス北西部、湖水地方のボローデールという谷です。1565年より前のある時期に、この地で黒く光る鉱物の大きな鉱脈が見つかりました。1500年ごろには見つかっていたとする資料もあります。
この鉱物は驚くほど純粋で、かたまりのまま棒状に切り出せるほどでした。こすると紙や布に黒い跡が残るので、地元の人たちは羊に持ち主の目印をつけるのに使っていたといいます。
当時はまだ化学が発達しておらず、人々はこの黒い鉱物を鉛の一種だと考えました。金属のような黒っぽい光沢や、こすると跡が残る性質が、鉛やその鉱石に似ていたためと考えられます。そこで、ラテン語で「鉛の鉱石」を意味する「プランバーゴ」や、「黒い鉛(ブラックレッド)」と呼ばれるようになりました。日本語の「黒鉛」という言葉にも、この誤解の名残が刻まれています。
王室が守った鉱山
ボローデールの黒鉛は、筆記具以外にも思わぬ使われ方をしました。エリザベス1世の時代には、砲弾をつくる鋳型の内側に塗ると、表面がなめらかで丸い砲弾ができたといわれます。軍事的にも重要だったため、この鉱山とその産出量は王室によって厳しく管理されていました。
この鉱物の正体がわかってきたのは、18世紀後半のことです。スウェーデンの化学者シェーレらの研究によって、鉛の鉱石とはまったく別の物質であることがはっきりし、1789年にはドイツの鉱物学者ヴェルナーが、ギリシア語の「書く」にちなんで「グラファイト」と名づけました。その正体は、ダイヤモンドと同じ炭素です。
粘土を混ぜたコンテの発明
ボローデールのような上質な黒鉛は、世界でもほとんど見つかりませんでした。困ったのは、イギリスと戦争をしていたフランスです。イギリスから黒鉛が手に入らなくなり、鉛筆が作れなくなってしまったのです。
1795年、政府の求めに応じてこの問題を解決したのが、発明家のニコラ=ジャック・コンテでした。コンテは、質の劣る黒鉛でも粉にして粘土と混ぜ、細長く固めて窯で焼けば、立派な芯になることを発見したのです。同じころ、オーストリアのハルトムートも似た方法を考え出していたとされます。
この方法のすごいところは、黒鉛と粘土の割合を変えるだけで、芯の硬さを自由に調整できることでした。200年以上たった今も、鉛筆の芯は基本的にこの方法で作られています。
「H」と「B」の意味
粘土を多くすると芯は硬くなり、薄く細い線が書けます。黒鉛を多くすると柔らかくなり、濃く黒い線になります。この違いを表すのが、鉛筆に刻まれた「H」や「B」の記号です。一般に、Hは硬い(Hard)、Bは黒い(Black)を意味するとされ、その中間のHBやFが標準的な硬さです。「H.B.」という表記は、少なくとも1814年には使われていたことがわかっています。
日本のJIS規格では、最も硬い9Hから最も柔らかい6Bまで、17種類の硬さが定められています。
ちなみに、鉛筆と鉛がまったく無縁だったわけではありません。20世紀の半ばごろまでは、鉛筆の軸に塗る塗料に、鉛を多く含むものが使われることがありました。とはいえ、それも芯ではなく外側の話です。