植物はなぜ緑色?
葉の葉緑素が赤と青の光をよく吸収し、緑の光はあまり吸収せずに跳ね返したり通したりするからです。
窓の外の街路樹も、公園の芝生も、ベランダの鉢植えも、植物の葉はたいてい緑色です。あまりに当たり前すぎて、「なぜ緑なのか」と改めて考えることは少ないかもしれません。
答えの半分は、学校の理科で習うとおりです。けれども残りの半分は、いまも研究者たちが議論を続けている、なかなかの難問なのです。
緑は「あまり使われなかった」色
太陽の光は白く見えますが、実際には虹の七色すべての光が混ざっています。物に色があるように見えるのは、その物が一部の色の光を吸収し、残りの光を跳ね返したり通したりしているからです。
葉の細胞の中には、葉緑体という小さな粒がたくさんあり、そこに葉緑素(クロロフィル)という色素が含まれています。光合成に使われる主な葉緑素はクロロフィルaとbの2種類で、どちらも青い光と赤い光をよく吸収します。ところが、その間にある緑の光は、あまり吸収しません。
吸収されずに残った緑の光が、葉の表面で跳ね返ったり、葉を通り抜けたりして私たちの目に届く。だから葉は緑色に見えるのです。
では、なぜ黒くないのか
ここで素朴な疑問がわいてきます。地上に届く太陽の光は、おおまかにいえば、目に見える光の真ん中あたり、青緑から緑のあたりで特に強くなっています。せっかく豊富にある緑の光を、なぜわざわざ使い残すのでしょうか。すべての色を吸収する真っ黒な葉のほうが、たくさんのエネルギーを得られそうに思えます。
この問いには、いくつかの仮説があります。
ひとつは「紫の地球」仮説です。生命の歴史のごく初期には、葉緑素とは別の色素を使って光からエネルギーを得る微生物が栄え、その色素が緑の光を吸収していたのではないか。後から現れた葉緑素をもつ生き物は、残された青と赤の光を使うしかなかった、という考え方です。
もうひとつが、2020年に科学誌『サイエンス』に発表された、アメリカのカリフォルニア大学リバーサイド校のナサニエル・ガボールさんらの説です。光の量は、雲や木漏れ日によって刻々と揺らぎます。電気の送電網と同じように、入ってくるエネルギーが不安定すぎると、システムがうまく働きません。研究チームは、光が最も強い範囲の両側にある、狭い2つの色を吸収するほうが、揺らぎに強く安定してエネルギーを得られることを、計算で示しました。
また、強すぎる光はかえって植物にとって有害で、光合成のしくみを傷めてしまうことも知られています。すべての光を吸収しないことが、むしろ身を守ることにつながっているのかもしれません。どの説が正しいのか、決着はまだついていません。
緑の光も、じつは使われている
しかも、「緑の光は使われていない」という見方自体、少し単純すぎることがわかってきました。
東京大学の寺島一郎さんらは、2009年に発表した研究で、葉の中での光の行方に注目しました。青や赤の光は、葉の表面近くにある葉緑体にほとんど吸収されてしまいます。一方、吸収されにくい緑の光は、葉の奥深くまで届きます。
ヒマワリの葉を使った実験では、強い白色光の下では、緑の光のほうが赤い光よりも効率よく光合成を進めることが示されました。表面の葉緑体は、強い光の下ではすでに手いっぱいです。そこへさらに赤い光を足しても効果は小さいのに対し、葉の奥まで届く緑の光は、まだ余力のある内側の葉緑体を働かせることができるのです。葉が緑色に見えるのは、緑の光を無駄にしているからではなく、葉の奥まで光を行き渡らせる工夫の表れなのかもしれません。