世界一大きな種は?
インド洋のセーシェル諸島に生えるフタゴヤシの種です。重さは最大で25キロほどにもなります。
25kg
植物の種と聞いて思い浮かべるのは、ヒマワリやアサガオの種のような、手のひらにいくつも乗る小さな粒でしょう。大きなものといえば、ココナッツくらいかもしれません。
ところが、インド洋に浮かぶ島には、ココナッツをはるかにしのぐ巨大な種をつける植物があります。重さは10キロを超えるのがふつうで、大きなものでは25キロほど。小学生が両手で抱えても、持ち上げるのがやっとという重さです。世界一大きく、世界一重い種として知られる、フタゴヤシの種です。
海の底に生える木の伝説
フタゴヤシの種は、昔から謎に包まれていました。インド洋のモルディブなどの海岸に、ときおり大きな実が流れ着くのに、それが実る木を見た人は誰もいなかったからです。
船乗りたちのあいだでは、この実は海の底に生える木になるのだと信じられました。実際、フタゴヤシの実は重いため、海に落ちるといったん沈んでしまいます。やがて外側の殻が朽ちると、中に生じたガスで軽くなり、海面に浮かび上がってくるのです。底から浮かんでくる実を見れば、海中の木を想像したくなるのも無理はありません。
珍しい実は不思議な力をもつ宝物として、王侯貴族のあいだで高い値段で取り引きされました。その故郷がインド洋のセーシェル諸島だと突き止められたのは、18世紀の後半になってからのことです。ちなみに学名の「マルディビカ」は「モルディブの」という意味ですが、フタゴヤシがモルディブに自生していたことはありません。流れ着いた場所の名前が、そのまま残ってしまったのです。
二つの丸みをもつ巨大な種
フタゴヤシはヤシの仲間で、高さ25〜30メートルほどにもなります。扇のような形の葉は、長さ7〜10メートルにもなる巨大なものです。
実は、殻をつけたままだと重さ25〜45キロほどにもなり、中に入っている種だけでも10〜25キロほどあります。種は二つの丸みが合わさったような独特の形をしていて、「フタゴヤシ(双子椰子)」という和名もこの姿に由来します。フランス語では「ココ・ド・メール(海のココナッツ)」と呼ばれます。
野生のフタゴヤシが生えているのは、セーシェル諸島のプララン島とキュリーズ島だけです。プララン島のヴァレ・ド・メ自然保護区は、フタゴヤシの森を守る場所として、世界遺産にも登録されています。
とても気の長い一生
フタゴヤシは、何をするにも時間がかかる植物です。花が咲いてから実が熟すまでに6〜7年、さらに種が芽を出すまでに2年ほどかかるといわれます。
芽を出すときには、種から根のような管が伸び、ふつうは4メートルほど、ときには10メートル近くも離れた場所で、ようやく若い芽が地上に顔を出します。木が花を咲かせるまでには、さらに数十年かかることもあります。オスの木とメスの木が分かれていて、実をつけるのはメスの木だけです。
現在、野生で育つ成熟したフタゴヤシは約8000本と推定され、絶滅のおそれがある植物に指定されています。種の持ち出しや取り引きは、セーシェル政府によって厳しく管理されています。
なぜこんなに大きくなったのか
これほど大きな種をつくる理由については、研究者たちが興味深い考えを示しています。フタゴヤシが生える島の土は、栄養がとても乏しいのです。
フタゴヤシの巨大な葉は、じょうごのような形をしていて、落ちてきた花粉や小さなごみを受け止めます。それが雨水と一緒に幹の根元へ流れ落ちることで、木の足もとの土が少しずつ豊かになると考えられています。重い種は遠くへ転がらず、親の近くに落ちます。親が整えた栄養のある場所で、種にたくわえたたっぷりの栄養を使いながら、ゆっくり育っていく。 巨大な種は、そんな暮らし方に合わせた進化の結果なのかもしれません。