キノコは植物?
いいえ。キノコは「菌類」の仲間です。遺伝子で比べると、植物よりむしろ動物に近い生きものです。
シイタケ、エノキタケ、マイタケ。スーパーではキノコが野菜売り場に並び、森の中では木の根もとや倒木から生えています。動かずにじっとしているので、なんとなく植物の仲間だと思っている人も多いでしょう。
けれども、キノコは植物ではありません。カビや酵母と同じ「菌類」という生きもののグループに属しています。食品の世界でも、国の「日本食品標準成分表」では、キノコは「野菜類」とは別の「きのこ類」として分けられています。
かつては植物に入れられていた
18世紀にスウェーデンの博物学者リンネが生きものの分類を体系づけたころ、生きものは大きく「動物」と「植物」の二つに分けられていました。動き回らず、地面から生えてくるキノコは、植物の側に入れられていたのです。
ところが研究が進むにつれ、キノコやカビは植物とあまりに違うことがはっきりしてきました。1969年、アメリカの生態学者ホイッタカーは、生物を五つの「界」に分ける考え方を提案し、菌類を植物から切り離して独立した「菌界」としました。いまでは、菌類が植物でも動物でもない独自のグループであることは、生物学の常識になっています。
植物とはここが違う
まず、菌類は光合成をしません。葉緑体を持たないので、太陽の光から栄養をつくることができないのです。そのかわり、落ち葉や枯れ木、ほかの生きものの体などを分解して栄養を取りこみます。森に落ち葉が積もり続けず、やがて土に還っていくのは、菌類が分解役として働いているおかげでもあります。
体のつくりも違います。植物の細胞壁はセルロースでできていますが、菌類の細胞壁の主な成分はキチンです。キチンは、昆虫の体やカニの殻にも含まれる物質です。また、植物は栄養をデンプンとしてたくわえますが、菌類は動物と同じようにグリコーゲンとしてたくわえます。
遺伝子で見ると動物の親戚
さらに驚きなのは、遺伝子を調べた研究の結果です。1993年、アメリカの研究者バルダウフとパーマーは、いくつかのタンパク質を比べて、菌類と動物だけが共通して持つ特徴を見つけました。その後の多くの研究でも、菌類は植物よりも動物に近いことが確かめられています。
もちろん、キノコが動物だというわけではありません。遠い昔に共通の祖先から枝分かれしたあと、動物は動き回って食べる道へ、菌類は菌糸を伸ばして分解する道へと進みました。それでも家系図の上では、キノコは野菜より、むしろ私たち人間に近い親戚なのです。
キノコは「実」、本体は地下に
私たちが「キノコ」と呼んでいるのは、菌類の体のごく一部にすぎません。キノコは、胞子をつくってまき散らすための器官で、「子実体」と呼ばれます。植物にたとえるなら、花や実にあたる部分です。
本体は、土の中や木の中に張りめぐらされた「菌糸」という細い糸のような細胞の集まりです。ふだんは目に見えない菌糸が、条件がそろうと集まって、地上にキノコを出すのです。
この菌糸は、ときにとてつもなく大きくなります。アメリカ・オレゴン州東部の国有林では、オニナラタケの1個体の菌糸が、地下に約9平方キロメートルにわたって広がっていることがわかりました。年齢は数千年、一説には8000年ほどと見積もられ、世界最大級の生きものともいわれます。地上に見えるのは、秋に生えるキノコだけです。
菌類は、日本菌学会によれば推定150万種ともいわれ、その多くはまだ名前もついていません。キノコは、そんな巨大で多様な世界のほんの入り口なのです。