植物は音楽を聞かせると育つ?
確かな証拠はありません。ただし植物が振動や音に反応すること自体は、研究で確かめられています。
「クラシック音楽を聞かせて育てたトマト」「モーツァルトを流して熟成させたお酒」。そんな宣伝文句を見かけることがあります。観葉植物に毎日話しかけたり、音楽を流したりしているという人もいるでしょう。
植物には耳も脳もありません。それでも、音楽を聞かせると本当によく育つのでしょうか。結論から言うと、この話には確かな科学的根拠がありません。けれど、植物が音とまったく無関係かというと、実はそうでもないのです。
ブームの始まりは1970年代
植物に音楽を聞かせるという考えが広まったのは、1970年代のアメリカでした。1973年には、植物には感情や心があると主張する本『植物の神秘生活』がベストセラーになります。
同じ年には、ドロシー・レタラックという女性が、大学で行った実験をまとめた本を出版しました。植物を別々の部屋に分けてさまざまな音楽を流したところ、クラシックを聞かせた植物はスピーカーのほうへ傾いてよく育ち、激しいロックを聞かせた植物は弱ってしまった、というのです。
この話は大きな話題になりましたが、実験の進め方には多くの問題が指摘されています。植物の数が少なく、条件をそろえる工夫も十分ではありませんでした。どの音楽を「よい音楽」とするかも、本人の好みで決められていたといわれます。
確かめるのは意外と難しい
音楽の効果をきちんと確かめるのは、思った以上に難しいことです。スピーカーは熱や空気の揺れも生み出しますし、部屋によって光や温度がわずかに違うかもしれません。育てる人が「この鉢は音楽を聞かせているから」と期待して、水やりや手入れを無意識に変えてしまうこともありえます。
これまでにも、音楽や特定の周波数の音で植物の成長が変わったという報告はいくつもあります。しかし、規模が小さかったり、結果がそろわなかったりして、「この種類の音楽を聞かせればよく育つ」と言えるだけの証拠はありません。少なくとも、植物がクラシックとロックを聞き分けて好き嫌いをしている、という証拠はないのです。
それでも植物は「音」を感じている
ところが近年、植物が音や振動を感じ取っていることを示す、しっかりした研究が出てきました。
2014年、アメリカのミズーリ大学の研究チームは、イモムシが葉をかじるときの振動を録音し、シロイヌナズナという植物に聞かせました。すると、その振動を経験した植物は、あとで実際にイモムシに食べられたとき、虫を遠ざける防御物質をより多くつくったのです。風などのほかの振動では、同じ反応は起きませんでした。
2019年には、イスラエルのテルアビブ大学のチームが、海辺に咲くマツヨイグサの仲間に、ミツバチの羽音を録音して聞かせる実験を報告しました。羽音を聞いた花は、わずか3分ほどで蜜の糖度を高めたといいます。花びらが羽音に合わせて震え、まるで耳のような役目を果たしていると考えられています。
ほかにも、エンドウの根が、パイプの中を流れる水の音のするほうへ伸びていくという研究もあります。植物にとって大事なのは、音楽ではなく、虫や水といった生きていくうえで意味のある音なのかもしれません。
音楽より大切なこと
植物を手で触ったり揺らしたりすると、背が低くがっしりした体に育つことも、古くから知られています。植物は、私たちが思う以上にまわりの刺激に敏感です。
もし音楽を流している鉢植えが元気に育っているなら、それは音楽そのものより、そばで見守る時間が増え、水やりや日当たりに気を配るようになったおかげかもしれません。それはそれで、植物にとってはうれしいことでしょう。