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    ストラディバリウスはなぜ特別なの?

    300年前の名工の楽器で、現存数が少なく歴史的価値が高いため。音の秘密は今も議論中です。

    約650挺

    現存するとされるストラディバリの楽器の数

    テレビの格付け番組や、世界的なバイオリニストの紹介で耳にする「ストラディバリウス」。何億円、ときには十数億円という値段とともに語られ、もはや「最高の楽器」の代名詞のようになっています。

    けれども、あらためて考えると不思議です。木と弦と接着剤でできた楽器が、なぜそこまで特別視されるのでしょうか。そして、その音は本当に、ほかのバイオリンとは違うのでしょうか。

    クレモナの名工

    ストラディバリウスとは、イタリア北部の町クレモナの弦楽器職人アントニオ・ストラディバリと、その工房で作られた楽器のことです。ストラディバリは1644年ごろに生まれ、1737年に亡くなるまで、90年を超えるといわれる長い生涯の大半を楽器づくりに捧げました。

    楽器や道具が並ぶ工房で、年配の職人がバイオリンを手にじっと見つめている版画
    エドゥアール・アマンの絵をもとにした19世紀のリトグラフ『ストラディバリウス』(アムステルダム国立美術館所蔵)。工房のストラディバリを想像して描いたもので、本人の確かな肖像画は伝わっていないとされます。出典: Rijksmuseum / CC0 / Wikimedia Commons

    クレモナは16世紀からアマティ家などの名工を生んだ、バイオリンづくりの中心地でした。ストラディバリもアマティ工房で修業したといわれますが、確かな証拠は乏しく、諸説あります。生涯に作った楽器は約1100点、そのうち現存するのは約650点と推定されています。とくに1700年から1720年ごろに作られたものは「黄金期」の作品として名高く、一つひとつに「メサイア」「レディ・ブラント」といった愛称がつけられています。

    十数億円の値がつく理由

    ストラディバリウスの値段を押し上げているのは、まず数の少なさです。300年前に作られた楽器が、いまも演奏できる状態で残っていること自体が奇跡的で、新たに増えることはありません。

    2011年には、1721年製の「レディ・ブラント」が約1590万ドルで落札され、楽器のオークション史上最高額として話題になりました。所有していた日本音楽財団が、東日本大震災の復興支援のために手放したもので、売上金は全額が被災地に寄付されました。

    いまでは、ストラディバリウスの多くは財団や企業、個人の収集家が所有し、優れた演奏家に貸し出す形で使われています。楽器そのものが、美術品のような文化財になっているのです。

    音の秘密をめぐる仮説

    では、その音色はどこから来るのでしょうか。これまでに、さまざまな仮説が唱えられてきました。

    よく知られているのが、木材の説です。ストラディバリが活躍したころのヨーロッパは「小氷期」と呼ばれる寒い時期にあたり、木の成長が遅かったため、年輪が細かく詰まった均質な木材が得られたのではないか、というものです。ほかにも、木材を虫から守るための薬品処理が音に影響したという説や、独特のニスに秘密があるという説、そして何より、板の厚みや形を決める職人の技こそが鍵だという考え方もあります。いずれも一部の研究で裏付けが示されていますが、決定的な答えは出ていません。

    縞模様の木目が浮かぶ、赤みがかった金色のバイオリンの裏板
    ストラディバリが1711年に製作したバイオリン「アントニウス」の裏板(メトロポリタン美術館所蔵)。カエデ材の縞模様と、赤みがかった金色のニスが目を引きます。出典: Antonio Stradivari / CC0 / Wikimedia Commons

    目隠しテストの意外な結果

    さらに議論を呼んだのが、目隠しで楽器を比べる実験です。フランスの研究者クラウディア・フリッツらのグループは、演奏者に視界を遮るゴーグルをつけてもらい、ストラディバリウスなどの古いイタリアの名器と、現代の優れた職人が作った新しいバイオリンを弾き比べてもらいました。

    2014年に発表された研究では、10人の著名なソリストが、ストラディバリ5挺を含む古い名器6挺と、新しい楽器6挺を試しました。その結果、最も好まれたのは新しい楽器で、演奏者たちは古い楽器と新しい楽器をほとんど見分けられなかったといいます。2017年には聴衆を対象にした実験も行われ、ここでも新しい楽器のほうが好まれ、音もよく遠くまで届くと評価されました。

    もちろん、実験の条件や、慣れない楽器を短時間で弾く難しさを指摘する声もあります。ただ少なくとも、「ストラディバリウスの音は、誰が聞いても特別だ」とは言い切れないようです。その価値は音色だけでなく、300年の歴史と名演奏家たちの記憶を背負っていることにもあるのでしょう。

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