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    醤油はいつから使われている?

    祖先の「醤(ひしお)」は8世紀初めの記録に登場します。液体の醤油の名前が見えるのは室町時代からです。

    刺身に、冷ややっこに、焼き魚に。日本の食卓で、醤油ほど出番の多い調味料はそうないでしょう。いまや世界中のスーパーマーケットに並び、英語でも「ソイソース」として通じます。

    あまりに身近すぎて、醤油に「始まり」があったことすら、ふだんは考えません。けれども歴史をさかのぼると、醤油は少しずつ姿を変えながら、長い時間をかけてできあがってきた調味料だとわかります。

    ご先祖は古代中国の「醤」

    醤油のルーツとされるのは、古代中国の「醤(しょう)」です。肉や魚、穀物などを塩とともに発酵させた調味料で、はじめは肉や魚の醤が中心でしたが、やがて大豆などの穀物でつくる醤も登場しました。

    日本でも、この醤は「ひしお」と呼ばれて古くから使われていました。701年の『大宝律令』には、醤を扱う「主醤(しゅしょう)」という役職の名前が見えます。平安時代の法令集『延喜式』には、大豆からどれだけの醤ができるかという分量まで記されています。

    ただし、このころの醤は、どろりとした味噌に近いものだったと考えられています。いまのようなさらさらの液体の醤油が登場するのは、もう少し先のことです。

    味噌の桶にたまった「最初の一滴」

    液体の醤油の誕生について、和歌山県の湯浅町に伝わる有名な話があります。

    鎌倉時代の禅僧、覚心(かくしん)は、1249年に中国の宋へ渡り、修行のかたわら「径山寺(きんざんじ)味噌」のつくり方を学んで、1254年に帰国しました。径山寺味噌は、刻んだ野菜を漬けこんでつくるなめ味噌で、いまの金山寺味噌の祖先とされています。この味噌を仕込むうちに、野菜から出た水分が桶の底にたまりました。なめてみるとなんともおいしい。これをもっとつくろうと工夫を重ねたのが、湯浅の醤油の始まりだといわれています。

    瓦屋根に格子戸の古い木造の家が両側に並ぶ、細い通り
    和歌山県湯浅町に残る古い町並み。江戸時代には醤油の醸造元が軒を連ねていました。出典: 663highland / CC BY 2.5 / Wikimedia Commons

    この話は言い伝えですが、湯浅が醤油づくりで栄えたのは確かです。1535年には湯浅の醤油が船で大坂へ出荷されたという記録が残るとされ、江戸時代の後期には、町に90軒を超える醤油の醸造元があったといいます。2017年には「『最初の一滴』醤油醸造の発祥の地 紀州湯浅」として、日本遺産にも認定されました。

    「醤油」という名前が現れるまで

    では、「しょうゆ」という言葉はいつから使われているのでしょうか。

    1474年ごろに成立した辞書『文明本節用集』には、「漿醤」という字に「シヤウユ」と読み仮名が振られています。いまと同じ「醤油」という書き方は、それから約100年後、1568年の奈良の僧の日記『多聞院日記』に登場するとされています。また、1603年にイエズス会が長崎で出版した『日葡辞書』には、「Tamari(たまり)」が「味噌から取る、非常においしい液体」として紹介されています。室町時代から戦国時代にかけて、液体の調味料が少しずつ広まっていった様子がうかがえます。

    江戸時代になると、醤油づくりは関西から関東へも広がります。千葉県の銚子や野田などで、大豆と小麦を使った色の濃い「濃口醤油」がさかんにつくられ、江戸の人々の食卓を支えるようになりました。

    オランダ船に乗ってヨーロッパへ

    醤油は、早くから海外へも旅立っていました。1647年、長崎の出島にあったオランダ東インド会社が、醤油の輸出を始めます。行き先ははじめ東アジアで、18世紀にはヨーロッパにも運ばれるようになりました。

    展示ケースに並ぶ二本の白い磁器の瓶。胴にアルファベットの文字が書かれている
    函館で出土したコンプラ瓶。右の瓶にはオランダ語で「日本の上等な醤油」を意味する文字が書かれています。出典: ぽん吉 / CC0 / Wikimedia Commons

    長い船旅のあいだに醤油が傷まないよう、輸出には磁器の瓶も使われました。長崎県の波佐見などで焼かれた白い「コンプラ瓶」です。瓶の胴には、オランダ語で「日本の醤油」を意味する「JAPANSCH ZOYA」の文字が書かれていました。

    英語の「ソイ(soy)」も、この流れのなかで生まれた言葉です。日本語の「しょうゆ」がオランダ語に入って「ソヤ(soja)」となり、それが17世紀の後半に英語に取り入れられたと考えられています。オランダ語の形は、九州の方言の「ソイ」に近い発音がもとになったという説もあります。世界中で使われる「ソイ」という言葉の出どころは、日本の醤油だったのです。

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