サッカーボールはなぜ五角形と六角形?
五角形12枚と六角形20枚を組み合わせると、平らな革で球に近い形を作れるからです。
32枚
「サッカーボールの絵を描いてください」と頼まれたら、多くの人が白と黒のつぎはぎ模様を描くはずです。黒い五角形のまわりを、白い六角形が取り囲む。絵文字や標識でもおなじみの、あの模様です。
でも、なぜ五角形と六角形なのでしょうか。どちらか一方ではいけないのか、枚数はいくつでもよいのか。考え始めると、この見慣れた模様には、思いのほか深い理由が隠れています。
平らな革で丸を作る難しさ
ボールは丸くなければなりません。けれども、材料になる革やシートは平らです。平らな布を何枚もつなぎ合わせて、できるだけ球に近い形を作る。これは、ボール職人にとって昔からの難題でした。
六角形だけを並べると、どこまでいっても平らな面が続くだけで、丸くなりません。蜂の巣を思い浮かべると、よくわかります。ところが、六角形のあいだに五角形を差し込むと、その部分で面が少しずつ折れ曲がり、全体が閉じた立体になっていきます。
ここで面白いのが数学です。五角形と六角形だけを使い、どの角でも3枚の面が出会うように立体を組むと、六角形の数がいくつであっても、五角形は必ず12枚になることが、オイラーの多面体定理から導かれます。五角形12枚と六角形20枚の組み合わせは、そのなかでも球に近い形をバランスよく作れる構成で、数学では「切頂二十面体」と呼ばれています。空気を入れると、平らなパネルがふくらんで、ほぼ真ん丸のボールになるのです。
白黒は、テレビのため
32枚の切頂二十面体のボールは、1962年にデンマークのボールメーカーが売り出したのが始まりとされています。それ以前のサッカーボールは、細長い革を縫い合わせた、いまのバレーボールに近い見た目のものが一般的でした。
この形を世界中に印象づけたのが、1970年のワールドカップ・メキシコ大会で公式球になった「テルスター」です。五角形を黒、六角形を白に塗り分けたのは、白黒テレビの画面でもボールの動きが見やすいようにするためでした。当時はまだカラーテレビが世界的には珍しく、多くの人が白黒の画面で試合を見ていたのです。白黒の塗り分け自体はテルスター以前から使われていましたが、ワールドカップという大舞台が、この模様を「サッカーボールの顔」にしたといえます。
化学者もサッカーボールに驚いた
この形は、思わぬところにも現れます。1985年、イギリスのハロルド・クロトーとアメリカのロバート・カール、リチャード・スモーリーらは、炭素原子60個が切頂二十面体の頂点に並んだ分子を見つけました。サッカーボールとまったく同じ形をした分子です。
この分子は、似た形のドームを設計した建築家バックミンスター・フラーにちなんで「フラーレン」と名づけられ、発見者たちは1996年にノーベル化学賞を受賞しました。実はそれより前の1970年に、日本の化学者・大澤映二がこの分子の存在を理論的に予想していたことも知られています。
ボールを作る職人と、分子を調べる化学者が、同じ形にたどり着いていました。
パネルは減り続けている
ただし、最新のサッカーボールは、もう32枚のパネルでできているとは限りません。縫い合わせる代わりに熱で貼り合わせる技術が進んだことで、ワールドカップの公式球は、2006年に14枚、2010年に8枚、2014年には6枚と、パネルの数が大きく減ってきました。継ぎ目が少ないほど、より真球に近く、蹴ったときの性質がそろいやすいと考えられたためです。
それでも、私たちが思い浮かべる「サッカーボール」は、いまも五角形と六角形の白黒模様です。半世紀以上前のテレビ中継が残したイメージは、それほど強かったのでしょう。