野球ボールの縫い目はいくつ?
硬式球の縫い目は108個。大リーグの公式球は、いまも手縫いで作られています。
108個
白い革の上を、赤い糸の縫い目が大きなカーブを描いてぐるりと走る。野球のボールは、ひと目でそれとわかる独特の姿をしています。テレビ中継でも球場でも何度となく見ているはずですが、あの縫い目がいくつあるのか、数えたことはあるでしょうか。
答えは108個です。日本人なら、大みそかに鳴らす除夜の鐘や「煩悩の数」を思い出す数字かもしれません。野球ボールには、なんと煩悩と同じ数の縫い目がある。偶然とはいえ、ちょっと出来すぎた話です。
レモンの皮から8の字へ
野球が形を整えつつあった19世紀半ばのアメリカでは、ボールは手作りで、作り手によって大きさも重さもばらばらでした。よく使われたのが、のちに「レモンピール(レモンの皮)型」と呼ばれるボールです。1枚の革を花びらのような形に切り、芯を包むように縫い合わせたもので、縫い目がボールの上に4本の線を描いていました。
やがて、ひょうたんのような形に裁った2枚の革を組み合わせる、現在の「8の字」型の縫い方が広まります。考案者については諸説あり、靴職人の息子エリス・ドレイクが発明したという説もあれば、ウィリアム・カトラーという人物が考え、それをウィリアム・ハーウッドが買い取ったという説もあります。いずれにしても、ハーウッドが1858年ごろにマサチューセッツ州に工場を構え、この形のボールを量産したことが普及のきっかけになったとされています。
2枚の革の境目には、ボールをぐるりと一周する1本の長い縫い目ができます。途切れることのない、なめらかな曲線です。この縫い目に沿って並ぶ、V字形の糸のかがり目を数えると、108個になるのです。
いまも職人の手縫い
意外なことに、大リーグの公式ルールには「縫い目を108個にせよ」とは書かれていません。ルールが定めているのは、コルクやゴムの芯に糸を巻き、2枚の白い革で覆ってしっかり縫い合わせること、そして重さと周囲の長さの範囲です。108という数は、ボールの大きさと、ほどよい縫い目の間隔から定まってきたものと考えられています。
驚くのは、その縫い方です。大リーグの公式球は、いまも中米コスタリカの工場で、職人がひとつひとつ手で縫い上げています。機械化も試みられてきましたが、手縫いの品質には及ばなかったといわれます。革の素材も時代とともに変わり、かつては馬の革が使われていましたが、馬革の不足から、大リーグでは1974年に牛の革へ切り替えられました。
日本のプロ野球や高校野球で使われる硬式球も、縫い目は一般に108個です。煩悩と同じ数になったのは、あくまで偶然の一致とされています。
縫い目が、ボールを曲げる
縫い目は、ボールをまとめるためだけのものではありません。ピッチャーにとっては、投球を操るための大切な手がかりです。
回転しながら飛ぶボールの表面では、盛り上がった縫い目が空気の流れを乱します。どの向きに縫い目をそろえて投げるかによって、1回転するあいだに空気を切る縫い目の本数が変わり、ボールの伸びや曲がり方に違いが出るのです。速球の握りに「フォーシーム」「ツーシーム」という名前があるのは、まさにこの縫い目の本数のことを指しています。
108個の縫い目は、ボールを形づくると同時に、投手の指先の言葉にもなっています。
指先の感覚で縫い目をとらえ、わずかな角度の違いで球筋を変える。変化球の多彩さは、あの赤い糸がなければ生まれなかったかもしれません。