「ハットトリック」の語源は?
クリケットで3球続けて打者をアウトにした選手に、帽子が贈られたことが由来とされます。
サッカーの試合で、1人の選手が3点を決める。実況が「ハットトリック達成!」と叫び、スタジアムが大きく沸く場面です。
ハット(hat)は帽子、トリック(trick)は技や離れ業のこと。直訳すれば「帽子の技」です。3点を取ることと帽子に、いったい何の関係があるのでしょうか。答えをたどると、サッカーではなく、イギリス生まれの別の球技に行き着きます。
始まりはクリケット
その球技とはクリケットです。投手にあたる「ボウラー」が投げた球を、打者が平たいバットで打ち返します。打者の後ろには「ウィケット」と呼ばれる3本の木の柱が立っていて、ボウラーはこれを倒したり、打球を捕らせたりして打者をアウトにします。
1858年、イングランド北部のシェフィールドにあるハイドパーク・グラウンドで、強豪選抜チーム「オール・イングランド・イレブン」と、地元ハラムの22人のチームとの試合が行われました。このとき、オール・イングランドのボウラー、H・H・スティーブンソンが、3球続けて3人の打者をアウトにしたのです。
見事な離れ業に、観客たちはお金を出し合い、そのお金で買った帽子をスティーブンソンに贈りました。当時のクリケットでは、プロ選手のすばらしい活躍をたたえて、こうした募金が集められる習わしがありました。
「帽子の技」が言葉になるまで
こうして、3球続けてアウトを取ることは「ハットトリック」と呼ばれるようになりました。この言葉が印刷物に登場した最も古い例として知られているのは、1865年のイギリスの新聞『チェルムズフォード・クロニクル』です。
クリケットのハットトリックは、今も厳密です。同じボウラーが、自分の投げる球で3球連続して打者をアウトにしなければなりません。途中でほかのボウラーが投げる回をはさんでもかまいませんが、同じ試合の中で、自分の3球が続いていることが条件です。クリケットの国際試合の最高峰であるテストマッチでも、1879年に初めて記録されてから、50例ほどしかない珍しい記録です。
サッカーへ、そして氷の上へ
この言葉はやがてほかの競技にも広がり、「1試合で3回の得点や成功」を意味するようになりました。サッカーでは、1人の選手が1試合で3点を取ればハットトリックです。3点が連続している必要はなく、前半に1点、後半に2点でもかまいません。
ただし、国によってはこだわりもあります。ドイツでは、ほかの選手の得点をはさまずに、同じ前半か後半のうちに3点を続けて決めることを、特に「純粋なハットトリック」と呼んで区別します。また、右足、左足、頭で1点ずつ決めることは「パーフェクト・ハットトリック」と呼ばれます。
アイスホッケーでは、ハットトリックが決まると、観客が自分の帽子を次々とリンクに投げ込むのがおなじみの光景です。この習わしの始まりには、1940年代にカナダ・トロントの帽子店が、3点を取った選手に帽子を贈ると約束したことだという話など、いくつかの説があります。
大舞台のハットトリック
サッカーの男子ワールドカップの決勝でハットトリックを達成したのは、1966年のイングランドのジェフ・ハーストと、2022年のフランスのキリアン・エムバペの2人だけです。
女子では2015年のワールドカップ決勝で、アメリカのカーリー・ロイドが日本を相手に、試合開始からわずか16分でハットトリックを決めました。3点目はセンターライン付近からの超ロングシュートで、試合はアメリカが5対2で勝ちました。
イングランドのプレミアリーグでは、2015年にサディオ・マネが、わずか2分56秒の間に3点を決めています。これが今もリーグ最速のハットトリックです。