ゴルフボールのくぼみは何のため?
空気の流れを整えて抵抗を減らし、ボールをより遠くまで飛ばすためです。
ゴルフボールを手に取ると、表面には小さなくぼみがびっしりと並んでいます。このくぼみは「ディンプル」と呼ばれ、数はボールによって違いますが、300〜400個ほどのものが多いようです。
それにしても、不思議な形です。速く遠くへ飛ばしたいなら、表面はつるつるのほうが空気をすっと切り裂けそうに思えます。ところが実際は逆で、つるつるのボールは驚くほど飛びません。くぼみこそが、ゴルフボールの飛距離を支えている主役なのです。
羽根を詰めた革のボール
ゴルフは15世紀ごろのスコットランドで盛んになったとされるスポーツです。初期のボールは木製だったと考えられることもありますが、はっきりしません。17世紀ごろから広く使われたのが「フェザリー」と呼ばれるボールでした。牛革などを縫い合わせた袋に、煮てやわらかくした鳥の羽根をぎっしりと詰めこみ、乾かして固めたものです。
フェザリーは職人が手作業で作るため、とても高価でした。しかも雨にぬれると重くなり、強く打てば縫い目が裂けることもあります。ゴルフはしばらくのあいだ、裕福な人々の遊びという性格を持っていました。
傷だらけのボールのほうが飛ぶ
1848年ごろ、新しいボールが登場します。東南アジア産の樹木からとれる樹脂、ガタパーチャを型で丸めた「ガッティ」です。安く大量に作れるガッティは、ゴルフを一気に身近なものにしました。
ところが、作りたてのつるつるのガッティは、思ったほど飛ばなかったといいます。むしろ、使い込んで表面に傷やへこみがついたボールのほうが、よく飛んで、まっすぐ進む。ゴルファーたちはやがてそのことに気づきました。
そこで職人たちは、新しいボールにわざと傷をつけるようになります。ハンマーで表面を叩いて模様をつけたり、型に凹凸を刻んで、木いちごの実のような小さな突起を並べた「ブランブル」と呼ばれるボールを作ったりしました。理屈はわからないまま、経験から「でこぼこのほうが飛ぶ」ことが知られていったのです。
くぼみが空気を味方につける
現在のようなくぼみが本格的に広まったのは、20世紀の初めです。イギリスのウィリアム・テイラーが、突起ではなくくぼみを並べたボールの特許を取得し、これが現代のディンプルの原型になったとされています。
では、なぜくぼみがあると飛ぶのでしょうか。空気の中を飛ぶボールの後ろには、空気の渦ができます。この渦が大きいほど、ボールは後ろへ引き戻され、勢いを失います。つるつるのボールでは、表面を流れる空気が早いうちにはがれてしまい、後ろに大きな渦ができてしまうのです。
くぼみがあると、ボールの表面近くの空気がかき乱されて細かな乱れが生まれます。乱れた空気の層は、かえってボールの表面にしっかりと沿って流れ、はがれるのが遅くなります。その結果、後ろにできる渦が小さくなり、空気抵抗が大きく減るのです。
さらに、クラブで打たれたボールには強い逆回転がかかっています。回転するボールのまわりでは、上側と下側で空気の流れ方に差が生じ、ボールを持ち上げる力が生まれます。ディンプルはこの効果も助け、ボールが高く、長く空中にとどまれるようにしています。
傷だらけのボールのほうが飛ぶ。昔のゴルファーの経験則は、流体力学の理にかなっていました。
ディンプルのないボールは、ディンプルのあるボールの半分ほどしか飛ばない、ともいわれます。いまではメーカーごとに、くぼみの数や深さ、形を工夫した設計がしのぎを削っています。