ショートケーキの「ショート」とは?
英語の short には「サクサクともろい」の意味があり、もとはサクッとした生地の菓子でした。
ふわふわのスポンジに真っ白なクリーム、てっぺんには赤いいちご。日本でショートケーキといえば、誰もが同じ姿を思い浮かべるはずです。誕生日にもクリスマスにも登場する、いわば洋菓子の顔のような存在です。
ところで、この「ショート」とはいったい何のことでしょう。背が低いから? すぐに作れるから? 実はこの言葉、英語のちょっと意外な意味から来ています。そして、アメリカで「ショートケーキ」を頼むと、日本のものとはまるで違うお菓子が出てくるのです。
short には「もろい」という意味がある
英語の short は「短い」という意味でよく知られていますが、お菓子づくりの世界では**「サクサクともろい」**という意味でも使われます。ほろっと崩れる食感の生地を、英語では short と表現するのです。
なぜ「短い」が「もろい」になるのでしょうか。小麦粉に水を加えてこねると、グルテンというたんぱく質の網目ができて、生地は長く伸びるようになります。ところが、バターやラードなどの油脂をたっぷり練り込むと、このつながりがじゃまされて、グルテンの筋が短く断ち切られたような状態になります。伸びずに、サクッと砕ける。これが short な生地です。
お菓子づくりで使う「ショートニング」という油脂の名前も、ここから来ています。生地を short にするもの、という意味です。スコットランドの伝統菓子ショートブレッドがほろほろと崩れるのも、同じ理屈です。
アメリカのショートケーキはビスケット
英語の shortcake という言葉は古く、1588年にロンドンで出版された料理書にはすでに登場しています。ただし、このころのものは膨らませない素朴な焼き菓子でした。
19世紀のアメリカで重曹やベーキングパウダーが広まると、ショートケーキは大きく姿を変えます。1850年代には膨らませた生地にいちごをはさむ「ストロベリー・ショートケーキ」が人気になり、1860年代にはクリームも加わるようになりました。
いまでもアメリカのショートケーキは、この形が基本です。土台になるのは「ビスケット」と呼ばれる、パンとケーキの中間のような生地。小麦粉にショートニングやバターを混ぜ込んで焼くので、外はサクッと、中はふっくらしています。これを横に割って、砂糖をまぶしたいちごとホイップクリームをはさむのです。
日本のショートケーキはスポンジに
では、日本のショートケーキはどうしてスポンジなのでしょう。
よく知られているのが、洋菓子店「不二家」の創業者・藤井林右衛門にまつわる話です。藤井は1912年に洋菓子の視察のためアメリカへ渡り、そこでビスケット生地のショートケーキに出会いました。これを日本人の好みに合うように、ふんわりやわらかいスポンジケーキを使ったものに作りかえ、1922年(大正11年)に売り出したとされています。
ただし、日本で最初にスポンジのショートケーキを作ったのが誰かについては、はっきりしていません。フランスで修業した洋菓子店「コロンバン」の創業者・門倉国輝を挙げる説もあり、諸説あるのが実情です。いずれにしても、大正時代に日本の職人たちが、アメリカの家庭菓子をやわらかな「日本の味」へ作りかえたことは確かなようです。
こうして名前だけがアメリカから受けつがれ、中身はすっかり別物になりました。日本では「短い時間で作れるから」といった説明を耳にすることもありますが、言葉のもともとの意味は、あのサクサクの生地にあったのです。今では「ジャパニーズ・ショートケーキ」として海外で紹介されることもあるほど、日本独自の洋菓子として定着しています。