世界一高価なスパイスは?
サフランです。花のめしべを手で摘み取るため、1キロをつくるのに約15万個もの花が必要です。
150,000個
スペインのパエリア、フランスのブイヤベース、イタリアのミラノ風リゾット。どれも料理を美しい黄金色に染め、独特の香りを添えているのが、サフランというスパイスです。
小さな瓶に入った、赤くて細い糸のようなもの。売り場で見かけると、ほんの少しなのに値段の高さに驚かされます。上質なものになると、1キロあたり5,000ドルを超えることも珍しくなく、世界で最も高価なスパイスとして知られています。なぜ、これほど高いのでしょうか。
1つの花から、ほんのひとつまみ
サフランは、アヤメ科のクロッカスのなかま、サフランという植物の花からとれます。秋に薄紫色の花を咲かせ、その中心から伸びる赤いめしべの先端(柱頭)が、スパイスのサフランになります。柱頭は1つの花に3本しかありません。
1つの花からとれるサフランは、摘みたてで約30ミリグラム、乾燥させるとわずか7ミリグラムほどです。そのため、乾燥したサフランを1キロつくるには、およそ15万個もの花が必要になります。摘み取る柱頭の数にすると、40万本以上です。
しかも、この作業はほとんど機械化できません。サフランの花は、一つの畑ではわずか1〜2週間のうちにいっせいに咲き、夜明けに開いた花は日が高くなるにつれてしおれていきます。人々は朝のうちに花を一つずつ手で摘み、そこから細い柱頭を指先で丁寧に取り出します。そして柱頭を乾燥させて、ようやく製品になるのです。
種をつくれない花
サフランには、もうひとつ手間のかかる理由があります。この植物は種をつくることができないのです。
サフランは染色体を3組もつ「三倍体」で、花は咲いても実を結びません。そのため、地下にできる球茎と呼ばれる球根を掘り上げて分け、植え直すことで増やしていきます。野生のサフランは知られておらず、ギリシャなど地中海東部に自生する別のクロッカスから、人の手によって生まれ、受け継がれてきたと考えられています。サフランは、人間がいなければ子孫を残せない植物なのです。
色・味・香りを生む3つの成分
サフランの魅力は、3つの成分が支えています。色のもとは、水に溶けやすいクロシンという色素で、料理を鮮やかな黄金色に染めます。独特のほろ苦い味はピクロクロシン、香りはサフラナールという成分によるものです。
高価なだけに、偽物の歴史も長く続いてきました。中世ドイツのニュルンベルクでは、混ぜ物をしたサフランを売った者に、罰金や投獄、ときには死刑まで科したといわれます。現在でも、ターメリックやパプリカの粉、トウモロコシのひげなどを混ぜたり、すり替えたりした偽物が出回ることがあります。
現在の世界の生産量のおよそ9割は、イランが占めています。サフランと人との付き合いは古く、ギリシャのサントリーニ島にあるアクロティリ遺跡では、紀元前17世紀ごろに描かれた、サフランを摘む人々の壁画が見つかっています。
日本のサフランは大分から
日本でサフランの栽培が始まったのは、明治時代のことです。1886年、神奈川県大磯町の添田辰五郎が、病気の母親のためにサフランの球根を輸入して育てたのが始まりとされています。
1903年には、辰五郎から球根を譲り受けた吉良文平が、大分県竹田市に栽培を伝えました。現在、国内で生産されるサフランの約8割は竹田市産です。竹田では、湿気の多い日本の気候に合わせた独自の方法が受け継がれています。5月に球根を掘り上げてトレーに並べ、日の当たらない室内で保管すると、秋には土も水もないまま花が咲くのです。花は10月中旬から11月ごろに咲き、めしべを収穫したあとの12月に、球根を再び土に植えて育てます。日本では料理だけでなく、婦人薬の原料としても使われてきました。