夜空はなぜ暗い?
宇宙に年齢があり、遠くの星の光がまだ届いていないからです。宇宙の膨張も一役買っています。
138億年
夜になると空が暗くなる。これほど当たり前のことに、疑問を感じる人はあまりいないでしょう。太陽が地平線の下に沈めば、暗くなるのは当然です。
ところが、少し考えを進めると、この「当たり前」が奇妙なものに見えてきます。もし宇宙が無限に広がっていて、星がどこまでも散らばっているのなら、夜空は昼間のように、いえ、太陽の表面のようにまぶしく輝いているはずだからです。
どこを見ても星がある
この問題は、19世紀のドイツの天文学者ハインリヒ・オルバースの名をとって、「オルバースのパラドックス」と呼ばれています。
考え方はこうです。宇宙が無限に広く、星がどこにも同じように散らばっているとします。遠くの星ほど暗く見えますが、そのかわり、遠くへ行けば行くほど、そこにある星の数は増えていきます。計算してみると、明るさが弱まる効果と、星の数が増える効果は、ちょうど打ち消し合ってしまいます。
すると、夜空のどの方向に目を向けても、視線の先はいずれ、どこかの星の表面に突き当たることになります。深い森の中で、どちらを向いても最後には木の幹しか見えないのと同じです。夜空は一面、星の表面で埋め尽くされ、まばゆく輝いていなければなりません。
オルバースは最初の人ではなかった
じつは、この問題を考えたのはオルバースが初めてではありません。オルバースが論文を書いたのは1823年ですが、それより200年以上も前の1610年には、ヨハネス・ケプラーが、夜空が暗いことを、宇宙が無限ではない証拠だと考えていました。18世紀には、イギリスのエドモンド・ハレーや、スイスの天文学者ジャン=フィリップ・ロワ・ド・シェゾーも、この問題に取り組んでいます。
解決策として考えられたもののひとつが、宇宙に漂うちりやガスが遠くの星の光をさえぎっている、という説明でした。しかし、これではうまくいきません。光を吸収したちりは、長い時間のうちに温められ、やがて自分自身が光りはじめてしまうからです。
答えは「宇宙の年齢」
意外なところから、答えのヒントを示した人物がいます。『黒猫』や『モルグ街の殺人』で知られるアメリカの作家、エドガー・アラン・ポーです。
ポーは1848年に発表した散文詩『ユリイカ』の中で、星が果てしなく続いているなら、空の背景は天の川のように一様に輝いて見えるはずだと書きました。そのうえで、私たちが空に暗い隙間を見るのは、見えない背景があまりに遠く、そこからの光がまだ一筋も届いていないからだろう、という考えを示したのです。
現代の天文学の答えも、本質的にはこれに近いものです。宇宙は約138億年前に始まったと考えられています。光の速さは有限なので、私たちが見ることができるのは、宇宙が始まってから今までのあいだに光が届く範囲だけです。その範囲にある星や銀河の数は限られていて、夜空を埋め尽くすにはとても足りません。私たちが見上げる暗闇は、光がまだ届いていない宇宙の姿でもあるのです。
膨張する宇宙がもうひと押し
さらに、宇宙が膨張していることも、夜空を暗くするのに一役買っています。遠くの銀河ほど速く遠ざかっているため、そこから届く光は波長が引き伸ばされて赤い側へずれ(赤方偏移)、エネルギーも弱まります。
その極端な例が、「宇宙マイクロ波背景放射」です。宇宙が生まれて約38万年後に放たれた光は、宇宙の膨張によって波長が大きく引き伸ばされ、今ではマイナス270℃ほどの物体が出すような、目に見えないマイクロ波になっています。夜空は、じつはどの方向にもかすかに「光って」いるのですが、それが私たちの目には見えない波長になっているのです。
ただし、夜空が暗い理由としては、膨張の効果よりも、宇宙の年齢が有限であることのほうが大きいとする見方が一般的です。