北極星はずっと北極星?
いいえ。地軸の向きがゆっくり変わるため、北極星の役目は数千年ごとにほかの星へ移っていきます。
26,000年
北の空を長時間露光で撮影すると、星々が一点を中心に、ぐるりと同心円を描きます。地球が自転しているために、空全体が回って見えるのです。その回転の中心、「天の北極」のすぐそばで、ほとんど動かずに光っているのが北極星です。
方角を知る目印として、北極星は昔から船乗りや旅人に頼りにされてきました。けれども、この星がいつの時代も北を示してきたわけではありません。
北極星は「天の北極」の隣人
北極星は、こぐま座の2等星で、ポラリスとも呼ばれます。夜空でとびきり明るいわけではありませんが、天の北極のすぐ近くにあるおかげで、一晩中ほとんど位置を変えません。
ただし、ぴったり天の北極にあるわけではありません。2022年の時点で、北極星は天の北極から0.65度ほど離れていました。満月の見かけの直径がおよそ0.5度なので、満月1個と少しぶんのずれです。そして、このずれは今、少しずつ縮まっています。北極星が天の北極に最も近づくのは2100年ごろで、そのときの差は0.5度を切ると計算されています。
近づいている、ということは、いずれ離れていくということでもあります。天の北極は、星空の中をゆっくりと移動しているのです。
地球はコマのように首を振る
天の北極とは、地球の自転軸をまっすぐ北へ延ばした先にある点です。ですから天の北極が動くということは、地球の自転軸の向きそのものが変わっているということになります。
地球の自転軸は、公転する面に垂直な方向から約23.4度傾いています。しかも地球は完全な球ではなく、赤道のあたりが少しふくらんでいます。このふくらみを、月や太陽の重力が引っぱり、傾きを起こそうとします。すると回っている地球は、倒れる代わりに、軸の向きをゆっくりと回転させるのです。勢いよく回るコマが、軸を傾けたまま首を振るのと同じ動きで、これを**「歳差(さいさ)運動」**と呼びます。
首振りが一周するには、約2万6000年かかります。そのあいだに、自転軸の北の先は星空に大きな円を描き、その円の近くにある星が、時代ごとに入れ替わりで「北極星」の役を務めることになるのです。
この現象に初めて気づいたのは、紀元前2世紀の古代ギリシアの天文学者ヒッパルコスだとされています。自分で測った星の位置を、それより昔の記録と比べ、星の位置がずれていることを見つけたのです。
ピラミッドの時代の北極星
では、昔は誰が北極星だったのでしょうか。
古代エジプトでピラミッドが築かれていたころ、北極星の役目を担っていたのは、りゅう座のトゥバンという星でした。トゥバンが天の北極に最も近づいたのは紀元前2830年ごろで、そのずれは0.2度に満たなかったと計算されています。今の北極星よりも、ずっと正確に北を指していたのです。ただし明るさは3.7等ほどで、今の北極星よりかなり暗い星です。
その後、天の北極はトゥバンから離れ、紀元前1700年ごろから西暦300年すぎにかけては、こぐま座の2つの星がその近くにありました。ただ、どちらも今の北極星ほど天の北極に寄ってはいませんでした。ポラリスが「北極星」として頼りにされるようになったのは、長い歴史の中では比較的最近のことなのです。
1万2000年後の北極星は織姫星
これから先、天の北極はケフェウス座の星々のそばを通り、西暦3100年ごろにはケフェウス座のエライという星が北極星の役目を引き継ぐと見られています。
そして今からおよそ1万2000年後、西暦1万4000年を過ぎたころには、こと座のベガが北極星になると見られています。七夕の織姫星として知られる、夜空でも指折りの明るい星です。もっとも、天の北極からは5度ほど離れているため、今の北極星ほど「北のしるし」としては正確ではありません。
さらに時が流れ、西暦2万年を過ぎたころには、天の北極はふたたびトゥバンのそばへ戻ってきます。星空の巨大な時計は、こうして約2万6000年ごとに一周しているのです。