「ドレミ」の名前の由来は?
中世の聖歌の各行の頭の音節です。最初の音はもともと「ド」ではなく「ウト」でした。
ドレミファソラシド。音楽の授業で最初に覚えるこの並びは、あまりに身近すぎて、意味を考えたことのある人は少ないかもしれません。「ド」や「レ」は数字でもアルファベットでもなく、それ自体に意味があるようには聞こえません。
実はこの七つの音節には、ちゃんとした出どころがあります。そのルーツは、いまから約1000年前のイタリアの修道院にさかのぼります。
ある聖歌の「頭文字」
ドレミの名付け親とされるのは、11世紀のイタリアの修道士、グイード・ダレッツォです。グイードは聖歌隊に歌を教えるなかで、新しい歌をもっと早く覚えさせる方法を考えていました。
そこで目をつけたのが、洗礼者ヨハネをたたえるラテン語の聖歌「ウト・クェアント・ラクシス」でした。歌い手の声の不調を癒やしてほしいとヨハネに願う内容の歌で、歌詞は8世紀の修道士パウルス・ディアコヌスの作とされています。
この聖歌の旋律には、面白い特徴がありました。歌詞の区切りごとに、歌い出しの音がひとつずつ高くなっていくのです。そして各区切りの最初の音節を並べると、ut、re、mi、fa、sol、la となります。グイードはこれを音の高さの目印として使い、「この歌の re の音」と結びつけて覚えれば、初めて見る旋律でも歌えるようにしたのです。旋律そのものをグイードが作ったのではないか、という説もあります。
「ウト」が「ド」になるまで
お気づきのとおり、グイードの時代の音の名前は六つだけで、最初の音は「ド」ではなく「ウト」でした。
七番目の「シ」が加わったのは、ずっと後のことです。聖歌の最後に出てくる「聖ヨハネ」を意味するラテン語 Sancte Iohannes の頭文字、SとIを組み合わせたとされ、16世紀の終わりごろから広まったといわれます。
一方、「ウト」は語尾が詰まっていて歌いにくい音でした。17世紀のイタリアの音楽学者ジョヴァンニ・バッティスタ・ドーニは、これを開いた響きの「ド」に改めることを提案します。「ド」は「主」を意味するラテン語 Dominus からとったとも、自分の名字ドーニからとったともいわれ、こちらは諸説あります。ただ、フランスではいまでも「ウト」という呼び方が残っているそうです。
手のひらが楽譜だった
グイードの名前は、もうひとつの道具とも結びついています。指の関節や先に音の名前を割り当てた「グイードの手」です。教師が自分の手のひらの一点を指さすと、生徒はその位置の音を歌う。紙の楽譜が貴重だった時代の、持ち運べる教材でした。
もっとも、この方法をグイード本人が考えたかどうかははっきりせず、後の時代の人が彼の名を冠したとも考えられています。それでも、音に名前を与え、目と体で覚えられるようにしたグイードの工夫が、ヨーロッパの音楽教育に大きな影響を与えたことは確かです。グイードは、線を引いて音の高さを示す楽譜の書き方を整えた人物としても知られています。
国によって違う「音の名前」
ドレミは世界共通というわけではありません。英語圏では同じ音をC、D、E、F、G、A、Bのアルファベットで呼び、歌うときの「シ」は、19世紀のイギリスで「ティ」に改められました。「ソ」と頭文字がかぶらないようにするためだったといわれます。
日本では明治時代に西洋音楽が取り入れられた際、アルファベットの音名をいろは歌に置き換えた「ハニホヘトイロ」が生まれました。A、B、Cをイ、ロ、ハとしたため、ドにあたるCが「ハ」になったのです。「ハ長調」や「ト音記号」という言葉は、ここから来ています。