ウシには胃が4つある?
あります。ただし4つの別々の胃ではなく、1つの胃が4つの部屋に分かれたものです。
80%
焼肉店のメニューをよく見ると、「ミノ」「ハチノス」「センマイ」「ギアラ」と、聞き慣れない名前の部位が並んでいることがあります。食感も見た目もまるで違うこの4つは、じつはすべてウシの胃です。
「ウシには胃が4つある」とよく言われます。これは間違いではありませんが、少しだけ補足が必要です。
1つの胃に4つの部屋
ウシの胃は、4つの独立した胃が並んでいるわけではありません。食道からつながる1つの胃が、役割の違う4つの部屋に分かれている、というほうが正確です。
いちばん大きいのが、第1胃(ルーメン)です。4つの部屋の容積の約80%を占め、大人のウシでは100リットルを超えるとも、200リットルほどともいわれます。焼肉の「ミノ」はこの部分で、切り開いた形が、わらで編んだ雨具の蓑(みの)に似ているからともいわれます。
第2胃は内側がハチの巣のような網目模様になっていて、その見た目から「ハチノス」と呼ばれます。第1胃と一緒に働き、食べたものを口へ戻したり、細かくなったものを次の部屋へ送ったりします。
第3胃の内側には、ひだが本のページのように何枚も重なっています。そのひだの多さから「千枚」、つまり「センマイ」です。ここでは主に水分やミネラルが吸収されます。
そして第4胃が「ギアラ」です(この名前の由来には諸説あります)。胃酸と消化酵素を出して食べものを消化する、人間の胃に最もよく似た部屋で、「本当の胃」とも呼ばれます。
草を分解するのは微生物
これほど複雑な胃が必要なのは、ウシの主食が草だからです。草の主な成分であるセルロースは非常に丈夫で、ウシ自身はこれを分解する酵素を持っていません。
そこで活躍するのが、第1胃にすむ膨大な数の微生物です。中身1ミリリットルあたり、細菌だけで100億〜500億、原生動物が100万ほどいるともいわれ、カビの仲間も加わって、ウシに代わって草を発酵させて分解します。このときできる脂肪酸を、ウシは胃の壁から吸収してエネルギー源にしています。第1胃は、巨大な発酵タンクのようなものなのです。
働き終えた微生物は、食べものと一緒に第4胃へ送られ、今度はウシの栄養として消化されます。ウシは草を食べているようで、じつは草で育てた微生物も食べているわけです。なお、発酵のときにはメタンガスも発生し、ウシはこれをげっぷとして外に出しています。
1日に何時間ももぐもぐ
牧場のウシは、草を食べていないときでも、口をもぐもぐと動かしていることがよくあります。これが反芻(はんすう)です。いったん飲みこんだ草を第1胃から口へ戻し、もう一度かみ直してから飲みこむ動きを、何度もくり返しています。
反芻にかける時間は1日に6〜10時間ほどとされ、口に戻した草を1分ほどのあいだに50回くらいかむといわれます。かみ砕くことで微生物が働きやすくなるうえ、たっぷり出る唾液が、発酵で酸っぱくなりがちな胃の中を中和する役目も果たします。ウシが1日に出す唾液は、100リットルを超えるとされています。
子牛の胃は「第4胃」が主役
生まれたばかりの子牛は、まだ草を食べません。そのため胃のつくりも大人とは違い、乳を消化する第4胃が胃全体の約70%を占めています。成長して草を食べるようになるにつれ、第1胃が大きく発達していくのです。
4つの部屋は、最初から同じ割合で備わっているわけではなく、食べるものに合わせて育っていくというわけです。部屋の顔ぶれは生まれたときからそろっていても、その大きさのバランスは、乳から草へと食べものが変わるにつれて、がらりと入れ替わっていくのです。