ウォンバットのフンはなぜ四角い?
腸の壁に硬い部分とやわらかい部分があり、乾いて固まるフンに角をつけるためです。
100個
オーストラリア南東部やタスマニア島の森を歩いていると、岩の上や倒木の上に、小さな茶色いかたまりがいくつも置かれているのに出会うことがあります。よく見ると、それはきれいな角をもった、サイコロのような立方体をしています。
これは、ずんぐりした体で地面に穴を掘って暮らす有袋類、ウォンバットのフンです。生きものの体から、なぜこんなに四角いものが出てくるのでしょうか。
岩の上のサイコロ
ここでいうウォンバットは、主にヒメウォンバット(コモンウォンバット)と呼ばれる種類です。体長は1メートルほどで、草や根を食べ、夜に活発に動きます。
そのフンは一辺が約2センチの立方体に近い形をしていて、一晩に80〜100個ほども出されるといわれます。しかもウォンバットは、それを適当に落としているわけではありません。岩や倒木の上、巣穴の入り口のそばなど、目立つ場所に好んでフンを残します。
ウォンバットは視力があまりよくない一方で、嗅覚が鋭いといわれます。フンはにおいで「ここに誰がいるか」を仲間に伝える、伝言板のような役割を果たしていると考えられています。
お尻の穴が四角いわけではない
四角いフンと聞くと、「お尻の出口が四角いのでは」と想像したくなります。けれど、ウォンバットのお尻の穴は、ほかの哺乳類と同じように丸い形をしています。型抜きのように、出口で四角く成形されるわけではないのです。
この謎に本格的に取り組んだのが、アメリカのジョージア工科大学で動物の体の仕組みを研究する工学者、パトリシア・ヤンさんらのチームでした。オーストラリアのタスマニア大学の研究者と協力し、交通事故にあって安楽死となったウォンバットの消化管を詳しく調べたのです。
すると、腸の大部分ではフンはまだ泥のようにやわらかく、形も決まっていませんでした。それが腸の終わり近くになると、急に水分が抜けて固まり、角のあるかたまりへと分かれていきました。四角い形は、体の外ではなく腸の中でつくられていたのです。
腸の壁の「硬いところ」と「やわらかいところ」
では、腸の中でどうやって角がつくられるのでしょう。研究チームは、中身を取り除いた腸に細長い風船を入れてふくらませ、腸の壁がどこでどれだけ伸びるかを調べました。
わかったのは、腸の壁の伸び方が場所によって違うことでした。2021年に発表された論文によると、腸の周囲には硬い部分が2か所、やわらかい部分が2か所あります。腸がフンを押し出そうと縮むとき、硬い部分は速く強く縮み、やわらかい部分はゆっくり動きます。この差によって、フンの表面に角と平らな面が生まれると考えられています。
もうひとつの鍵は、フンの乾き具合です。ウォンバットの腸は長さ約10メートルと、体長の10倍ほどもあります。食べものは人間よりずっと長い時間をかけて腸を進み、そのあいだに水分がたっぷり吸い取られます。こうして乾いて固くなったフンは、腸の中でついた角を保ったまま外に出てくるのです。
この研究は2019年、「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるイグ・ノーベル賞の物理学賞を受賞しました。研究者たちは、やわらかい素材から角のある形をつくる新しい製造方法のヒントになるかもしれないとも述べています。
なぜ四角でなければならないのか
形ができる仕組みはかなりわかってきましたが、「なぜ四角いのか」という進化の理由は、まだはっきりしていません。
よく言われるのは、目立つ岩や倒木の上にフンを置いても、四角ければ転がり落ちにくいという説です。においの伝言板として使うなら、置いた場所にとどまってくれるほうが都合がよいでしょう。ただし、これはあくまで有力な仮説で、確かめられた事実ではありません。立方体のフンをつくる動物は、知られている限りウォンバットだけです。