ネコはなぜゴロゴロと喉を鳴らす?
気持ちを伝えるためと考えられています。音を出す仕組みはまだ研究が続いています。
ネコをなでていると、どこからともなく「ゴロゴロ」という低い音が聞こえてきます。耳を近づけなくても、手のひらに細かな振動が伝わってくるほどです。
満足しているときの音として知られるこのゴロゴロですが、実は「どうやって出しているのか」「何のために鳴らすのか」という基本的な問いに、まだ決着がついていません。世界中で何億匹も飼われている身近な動物の、身近な音だというのに、です。
喉の奥で震えているもの
ゴロゴロの音源は、喉の奥にある喉頭(こうとう)、つまり声を出す器官です。ネコが「ニャー」と鳴くときと同じ場所ですが、出し方はかなり違います。
ふつうの鳴き声は息を吐くときにしか出ませんが、ゴロゴロは息を吸うときにも吐くときにも続きます。そのため、途切れずにずっと鳴っているように聞こえるのです。音の高さはとても低く、多くは1秒間に20〜30回ほどの振動、つまり20〜30ヘルツ前後です。人間の男性の低い声よりも、さらにずっと低い音です。
1970年代以降、広く受け入れられてきたのは「脳からの信号で、声帯まわりの筋肉が1秒間に何十回も規則正しく縮んだりゆるんだりして音をつくる」という説明でした。体重数キロの小さな動物がこれほど低い音を出せるのは、筋肉による特別な仕組みがあるからだ、と考えられてきたのです。
2023年の新説「ゴロゴロのクッション」
この通説に一石を投じたのが、2023年に発表されたオーストリアのウィーン大学などの研究チームの論文です。
チームは、病気などで安楽死となったネコから提供された喉頭を使い、温かく湿った空気を送り込む実験をしました。すると、脳からの信号も筋肉の規則的な収縮もないのに、喉頭はゴロゴロと同じくらいの低い周波数で震えたのです。
鍵になりそうなのは、ネコの声帯の中に埋め込まれた、結合組織でできた厚みのある「パッド」でした。このクッションのような部分が声帯を重くし、ゆっくり震えやすくしているのではないかと研究者たちは考えています。音の出方は、人間がわざと低くかすれた声を出す「ボーカルフライ」によく似ていたそうです。
ただし、これで謎がすべて解けたわけではありません。生きたネコでは、筋肉の働きと声帯そのものの性質がどのように組み合わさっているのか、まだはっきりしていないのです。
「うれしい」だけではないゴロゴロ
では、ネコは何のためにゴロゴロ鳴らすのでしょうか。
生まれたばかりの子ネコは、目も耳もまだよく働きません。子ネコは生後数日でゴロゴロ鳴らし始め、授乳中の母ネコもゴロゴロと応えます。音というより振動で「ここにいるよ」と伝え合う、最初のコミュニケーションだと考えられています。
一方で、ネコはけがをしたときや出産のとき、動物病院の診察台の上など、とても満足しているとは思えない場面でも喉を鳴らします。ゴロゴロは「うれしい」の合図というより、「落ち着きたい」「そばにいて」という幅広いメッセージなのかもしれません。
さらに2009年、イギリスのサセックス大学の研究チームは、飼い主にごはんをねだるときのゴロゴロには、高い鳴き声のような成分が混ざっていると報告しました。人間の赤ちゃんの泣き声にも近いこの音は、ふだんのゴロゴロより切実に聞こえるそうです。ネコは鳴らし方を変えて、人を動かしているのかもしれません。
骨を治す振動という仮説
ゴロゴロには、もうひとつ興味深い仮説があります。ネコの喉鳴らしの周波数は、多くの報告でおよそ25〜150ヘルツの範囲に収まり、この範囲の振動は骨や組織の回復を助ける可能性があると、医療の分野で研究されてきました。そこで「ネコはゴロゴロで自分の体を治している」という説が生まれたのです。
魅力的な考えですが、ネコのゴロゴロが実際に骨折の治りを早めることを直接確かめた研究は、まだありません。今のところは、確かめられるのを待っている仮説のひとつと考えるのがよさそうです。