ナマケモノはなぜゆっくり?
栄養の少ない葉ばかりを食べるため、エネルギーをできるだけ使わない暮らしに体ごと適応しているからです。
8日
中南米の熱帯雨林の木の上で、長い爪を枝に引っかけて、じっとぶら下がっている動物がいます。ナマケモノです。動いたかと思えば、手を1本伸ばすのにも時間がかかり、見ているこちらがじれったくなるほどです。
日本語では「怠け者」、英語では「スロース」と、キリスト教で戒められる七つの大罪のひとつ「怠惰」と同じ言葉で呼ばれています。けれど、ナマケモノは怠けているわけではありません。ゆっくりであることこそが、彼らの生き残り戦略なのです。
葉っぱだけでは元気が出ない
ナマケモノには、前足の指が2本のフタユビナマケモノと、3本のミユビナマケモノの2つのグループがあります。特にミユビナマケモノは、ほとんど木の葉だけを食べて暮らしています。
木の葉は、どこにでもあって手に入りやすい一方、栄養が少なく、かたい繊維が多くて消化しにくい食べものです。ナマケモノはいくつもの部屋に分かれた胃をもち、その中にすむ微生物の力を借りて、少しずつ葉を分解します。食べたものが消化されて体を通り抜けるまでには、1か月以上かかることもあるといわれます。
つまり、ナマケモノは「入ってくるエネルギーがとても少ない」動物です。だとすれば、生きのびる方法はひとつ。出ていくエネルギーを、とことん減らすことです。
世界一の省エネ哺乳類
ナマケモノの体は、隅々まで省エネ仕様になっています。安静にしているときの代謝は、同じくらいの体の大きさの哺乳類から予想される値のおよそ半分しかありません。体重に占める筋肉の割合も25〜30%ほどで、ほかの哺乳類の40〜45%に比べてかなり少ないとされています。
2016年には、アメリカのウィスコンシン大学のジョナサン・ポーリさんらが、コスタリカで野生のナマケモノが実際に1日に使うエネルギーを測りました。すると、ミユビナマケモノの値はフタユビナマケモノより31%低く、冬眠中を除けば、これまでに測られたどの哺乳類よりも低いことがわかりました。
体温の保ち方も独特です。ナマケモノの体温は活動中でも30〜34℃ほどと低めで、まわりの気温に合わせて上がったり下がったりします。日の当たる木のてっぺんで日光浴をするのは、体を温めるためと考えられています。毛には藻類がすみつき、緑がかった色が木の葉の中で身を隠すのに役立っているともいわれます。
わざわざ降りる「週1回のトイレ」
そんなナマケモノが、わざわざ木から降りてくることがあります。排せつのときです。ミユビナマケモノは、およそ1週間から8日に1度、地面に降りて木の根もとに小さな穴を掘り、ふんをして、また埋め戻します。一度に出すふんと尿は、体重の3分の1に達することもあるといわれます。
木の上からそのまま落とせば済むのに、なぜ地上に降りるのか。これはナマケモノ研究の大きな謎のひとつです。ポーリさんらは2014年、毛にすむガが関係しているという説を発表しました。ガはナマケモノのふんに卵を産み、育った成虫がナマケモノの毛に戻ってきます。ガが栄養を運ぶことで毛の藻類が育ち、ナマケモノはその藻類を食べて栄養を補っているのではないか、というのです。ただし、この説にはまだ異論もあり、決着はついていません。
「寝てばかり」も誤解?
ナマケモノは1日に15時間以上も眠る、とよく言われます。けれど、これは主に動物園などで飼われている個体の観察にもとづく数字です。2008年に野生のノドチャミユビナマケモノに脳波を測る装置をつけて調べた研究では、睡眠時間は1日平均9.6時間ほどでした。
ゆっくり動き、少しだけ食べ、ほどほどに眠る。ナマケモノは怠け者というより、限られたエネルギーでやりくりする、倹約の達人なのです。