イルカは脳の半分ずつ眠るって本当?
本当です。左右の脳が交代で眠り、眠っている側と反対の目を閉じます。
私たちが眠るとき、まぶたを閉じ、体の力を抜き、まわりのことはほとんどわからなくなります。それが当たり前だと思っていますが、もし海の中でこんな眠り方をしたらどうなるでしょう。
イルカは魚ではなく、肺で呼吸する哺乳類です。数分から十数分おきに海面に上がって息を吸わなければなりません。しかも、イルカは呼吸を半ば意識的に行っていると考えられています。ぐっすり眠り込んでしまったら、息つぎも、天敵への警戒もできなくなってしまいます。
片目を開けたまま眠る
イルカがときどき片目だけを閉じて、ゆっくり泳いでいることは、古くから飼育係や研究者に知られていました。その意味を明らかにしたのが、1970年代初めにバンドウイルカの脳波を記録した、旧ソ連のレフ・ムハメトフさんらの研究です。
脳波を調べると、驚くべきことがわかりました。左右の大脳の片方には、深い眠りに特徴的なゆっくりした大きな波が現れているのに、もう片方は目覚めているときの波のままだったのです。これは「半球睡眠」と呼ばれます。イルカは文字どおり、脳の半分ずつ眠っていたのです。
右の脳が眠っているときは左目が閉じ、左の脳が眠っているときは右目が閉じます。目と脳の左右は交差してつながっているため、眠っている側の脳とは反対の目が閉じるわけです。報告によると、バンドウイルカの場合、1日のうちに左右の脳がそれぞれ合計約4時間ずつ眠るといいます。
起きている半分の仕事
眠っていないほうの脳は、休んでいるあいだも大切な仕事を受け持っています。体を動かして泳ぎ続けること、海面に上がって呼吸すること、そして開いている目でまわりを見張ることです。
開いた目は、天敵のサメを警戒するだけでなく、群れの仲間を見失わないためにも役立っていると考えられています。並んで泳ぐイルカが、仲間のいる側の目を開けて休むことがあるという観察もあります。
休んでいるイルカは、海面近くで丸太のようにじっと浮かんだり、群れでゆっくり同じ方向に泳ぎ続けたりします。眠りながら泳ぐというのは、人間には想像しにくい芸当です。
イルカの眠りには、もうひとつ人間と違う点があります。私たちの睡眠では、浅い眠りの「レム睡眠」と深い眠りが交互にくり返され、夢の多くはレム睡眠のときに見るといわれます。ところがイルカでは、このレム睡眠がはっきりとは確認されていません。イルカが夢を見ているのかどうかは、まだ誰にもわからないのです。
生まれたての赤ちゃんは眠らない?
イルカの眠りについては、まだわからないことも残っています。2005年には、シャチとバンドウイルカの赤ちゃんと母親が、出産後およそ1か月のあいだ、ほとんど休むことなく泳ぎ続けていたという報告が発表され、話題になりました。
ところがその後、別の研究チームが詳しく観察したところ、赤ちゃんイルカも泳ぎながら片目や両目を閉じて休んでいる様子が見られたと報告しています。生まれたばかりのイルカがどのように眠っているのかについては、今も議論が続いています。
鳥たちも片側で眠る
脳の片側だけで眠る能力は、イルカだけのものではありません。鳥の仲間にも、似た眠り方をするものがいます。
たとえば、カモの群れの端にいる個体は、群れの外側に向けた目を開けたまま、片側の脳で眠ることがあると報告されています。危険の多い位置にいるほど、片目を開けて眠る割合が増えるのです。
2016年には、海の上を何日も飛び続けるオオグンカンドリが、飛びながら眠っていることが脳波の記録から確かめられました。ただし、1回の眠りはほとんどが数秒から十数秒ほどの短いものでした。また、飛んでいるあいだの睡眠は1日の合計でも40分あまりと、陸の上で休むときよりずっと少なかったのです。