コウモリはどうやって暗闇を飛ぶ?
人には聞こえない超音波を出し、はね返ってくる音でまわりの様子を知っています。
夏の夕暮れ、街灯のまわりをひらひらと飛び回る黒い影を見かけることがあります。日本の街中でもよく見られる、アブラコウモリなどの小さなコウモリです。
コウモリは、明かりのない洞窟の奥や夜の森の中でも、壁や枝にぶつかることなく飛び回り、飛んでいる小さな虫を次々に捕らえます。いったいどうやって、暗闇の中で行く手を「見て」いるのでしょうか。
目隠しをしても飛べた
この謎に最初に本格的に挑んだのは、18世紀のイタリアの科学者、ラザロ・スパランツァーニでした。1793年、彼は目の見えない状態にしたコウモリでも、部屋の中に張りめぐらせた障害物をよけて飛べることを確かめました。コウモリは目に頼って飛んでいるわけではなかったのです。
一方、耳をふさがれたコウモリは、うまく飛べずにあちこちにぶつかりました。スイスの博物学者シャルル・ジュリーヌも、ほぼ同じころに同様の結果を報告しています。コウモリは「耳で見ている」らしい。けれど、コウモリが飛ぶとき、人間の耳には何の音も聞こえません。耳で何を聞いているのかという謎は、その後150年近くも解かれないままでした。
聞こえない声の発見
答えが見つかったのは1938年のことです。アメリカのハーバード大学の学生だったドナルド・グリフィンさんは、人間に聞こえない高い音を検出できる装置を開発していた物理学者のもとにコウモリを持ち込みました。すると、装置はコウモリが盛んに音を出していることをとらえたのです。
コウモリが出していたのは、人間の耳に聞こえる上限である約2万ヘルツよりも高い「超音波」でした。コウモリはこの声を出し、まわりの物や虫に当たってはね返ってきた音を聞いて、相手の位置や距離、大きさ、動きまで知っていたのです。グリフィンさんはこの仕組みを「エコーロケーション(反響定位)」と名づけました。
聞こえないとはいえ、その声はとても大きなものです。開けた空間で虫を追う種類のなかには、口のそばで測ると140デシベルを超える声を出すものもいると報告されています。もし人間の耳に聞こえたら、夏の夜はとてもうるさいことになっていたでしょう。
獲物に近づくほど速くなる声
コウモリは、状況に応じて声の出し方を変えています。獲物を探しているあいだは、ゆっくりした間隔で声を出しています。ところが虫を見つけて近づくにつれて間隔はどんどん短くなり、捕らえる直前には、1秒間に160回以上という猛烈な速さで声を出します。この最後の連続音は、録音を聞くとブーンという音に聞こえることから「バズ」と呼ばれています。
2011年、デンマークの南デンマーク大学などの研究チームは、ドーベントンコウモリなどを調べ、この高速の声を生み出しているのが、喉にある特別な筋肉であることを明らかにしました。この筋肉は1秒間に最大200回ほども縮むことができ、哺乳類で初めて見つかった「超高速筋」として注目されました。
蛾との知恵比べ
コウモリに食べられる側の虫たちも、黙ってはいません。多くの蛾は超音波を聞き取れる耳を持っていて、コウモリの声が近づくと急に向きを変えたり、地面に向かって落ちるように逃げたりします。
さらに驚くのは、北アメリカにすむヒトリガの一種です。2009年の研究で、この蛾はコウモリが襲いかかる直前に自分でカチカチと超音波を出し、コウモリのエコーロケーションを妨害していることが報告されました。レーダーを撹乱する「ジャミング」のような戦術を、蛾が使っていたのです。