缶切りは缶詰より後に生まれた?
本当です。缶詰の特許は1810年、専用の缶切りが登場したのは1850年代で、半世紀近い差があります。
缶詰と缶切り。いつもセットで思い浮かぶこの2つですが、生まれた時期には大きな開きがあります。缶詰が発明されてから、専用の缶切りが登場するまでに、およそ半世紀もかかっているのです。
開ける道具がないのに、なぜ缶詰は売られていたのでしょうか。答えは、意外なほど力ずくなものでした。
缶詰はナポレオンの時代に生まれた
食べ物を長持ちさせる技術は、戦争と深く結びついていました。1795年、フランスでは、遠征する軍隊のための新しい食品保存法に、1万2000フランの賞金がかけられます。これに挑んだのが、パリの菓子職人ニコラ・アペールでした。食べ物をガラス瓶に詰めて栓をし、湯の中で煮て密封する。この方法で、スープや野菜、果物などを長く保存することに成功します。1810年、アペールは政府から1万2000フランを受け取る代わりに、その製法を本にして公開しました。
同じ1810年、イギリスでピーター・デュランドが、ガラス瓶の代わりにブリキ(スズをめっきした鉄)の容器を使う保存法の特許を取得します。割れやすく重いガラスに比べて、金属の缶は丈夫で運びやすい。この特許を買い取ったブライアン・ドンキンとジョン・ホールは、ロンドンに缶詰工場を建て、1813年ごろからイギリス海軍などに缶詰を納めはじめました。
「ノミとハンマーで開けること」
ところが、初期の缶は、いまの缶とはまるで別物でした。鉄板は分厚く、缶そのものが中身より重いこともあったといいます。もちろん缶切りなどありません。ある缶詰には、「ふちの近くを、ノミとハンマーで切り開くこと」という説明が書かれていました。
戦場の兵士たちは、ナイフや銃剣を突き立ててこじ開けました。1812年に始まった米英戦争では、イギリス兵が銃剣で缶を開けていたと伝えられています。家庭でも、手もとの刃物や工具でなんとかするしかありませんでした。それでも長い間、専用の道具は作られませんでした。身近な道具で用が足りていたため、わざわざ新しい道具を開発する理由が乏しかったのだろうと考えられています。
ようやく現れた缶切り
変化のきっかけは、缶そのものの進化でした。1850年代になると、より薄い鉄板の缶が作られるようになり、専用の道具で切り開くことが現実的になったのです。
1855年、ロンドンの刃物・医療器具職人ロバート・イェーツが、先端が鉤爪のようになった、てこ式の缶切りを考案します。1858年には、アメリカ・コネティカット州のエズラ・ワーナーが、鎌のような刃を缶に突き刺し、ふちに沿って切り進める缶切りの特許を取りました。缶詰の誕生から、およそ半世紀後のことです。ワーナーの缶切りは南北戦争でアメリカ軍に使われましたが、むき出しの刃が危なく、家庭向きではありませんでした。
回る刃とギザギザの歯車
いまおなじみの、ふちに沿って円盤の刃を回すタイプの缶切りは、1870年にアメリカのウィリアム・ライマンが特許を取ったのが始まりです。ただ、最初に缶の真ん中に穴をあけて軸を固定する必要があり、使い勝手はいまひとつでした。
決定打となったのは1925年です。サンフランシスコのスター・キャン・オープナー社が、刃の円盤の反対側に、缶のふちをしっかりつかむギザギザの歯車を加えました。この工夫のおかげで、ハンドルを回すだけで缶がくるくると切り開けるようになります。100年近くたったいまも、この基本の形は多くの缶切りに受け継がれています。