キーボードの配列はなぜQWERTY?
19世紀のタイプライターの配列が受け継がれたから。「わざと速く打てなくした」というのは俗説です。
パソコンのキーボードを見ると、アルファベットの段の左上から、Q、W、E、R、T、Yと文字が並んでいます。この並びは、最初の6文字をとって「QWERTY(クワーティ)配列」と呼ばれます。
ABC順でもなく、よく使う文字が真ん中に集まっているわけでもない。この配列については「タイプライターの故障を防ぐため、わざと打ちにくくした」という話がよく知られていますが、歴史をたどると、どうもそう単純ではなさそうです。
最初はABC順だった
QWERTY配列のもとを作ったのは、アメリカ・ミルウォーキーの新聞人で政治家でもあったクリストファー・レイサム・ショールズです。仲間のグリデンやソウルとともにタイプライターの開発に取り組み、1868年に特許を取りました。
このときの鍵盤は、ピアノのような形で、キーはABC順に並んでいました。ショールズはその後も改良を重ね、1872年の試作機では、配列はいまのQWERTYにかなり近づいています。
1873年、銃やミシンを作っていたレミントン社が製造を引き受け、翌1874年にタイプライターが発売されます。配列はほぼQWERTYでしたが、C、X、Mの位置はまだいまと違っていました。いまとまったく同じ並びになったのは、1882年に売られたレミントン社の機種からだと、京都大学の安岡孝一さんは指摘しています。
「速く打たせないため」は本当?
よく聞くのは、「速く打つと内部の部品(タイプバー)がからまってしまうので、わざと打ちにくい配列にした」という説です。しかし安岡さんによると、ショールズのタイプライターでは、キーの並びと内部の部品の並びは自由に変えられる作りになっていました。部品のからまりを避けるためだけなら、キーの配列を変える必要はなかったはずだ、というのです。
安岡さんらは、当時タイプライターを使っていた電信のオペレーターたちの意見が、配列に影響したのではないかという説も唱えています。アメリカ式のモールス符号では、たとえば「Z」と「SE」がまぎらわしく、続く文字を聞いてからすばやく打ち分けられるよう、Z、S、Eを近くに置いたと考えるのです。
もうひとつ有名なのが、「セールスマンが TYPEWRITER という単語を、いちばん上の段だけで打って見せられるようにした」という話です。ところが当時の商標は「Type-Writer」と、間にハイフンが入っていました。この話は、後の時代に作られたジョークだろうとされています。
決め手はライバルの合併
1880年代、レミントン社の最大のライバルは、別の配列を使うカリグラフ社でした。タイピングの速さを競う大会でも、どちらの配列が勝つかは決着がつきませんでした。
流れを変えたのは、配列のよしあしではなく、会社どうしの合併でした。1893年、レミントンやカリグラフを含む大手5社が、ひとつの持ち株会社の傘下に入ります。5社は配列をそろえ、カリグラフも1898年にQWERTYの機種を売り出しました。さらに1900年に発売され大ヒットしたアンダーウッド社のタイプライターも、レミントンと同じ配列を採用します。こうしてQWERTYは、性能で勝ったというより、市場を押さえたことで標準になったのです。
そしてコンピューターへ
タイプライターの配列は、電信の世界にも入りこみました。1901年、印刷電信機(テレタイプ)の原型を作ったドナルド・マレーは、キー配列にQWERTYを使います。この方式では、QWERTYUIOPの10個のキーに数字の1〜0を割り当てる必要があり、配列を変えにくくなりました。
1949年にイギリスで動き出した初期のコンピューター「EDSAC」も、入出力にテレタイプを使っていました。その後もコンピューターの端末にはテレタイプが使われ続け、QWERTYはそのままパソコンへと受け継がれていきます。1930年代にアメリカのドボラックが打ちやすさを追求した配列を考案しましたが、広く普及することはありませんでした。