シマウマの縞は何のため?
血を吸うアブなどを寄せつけないため、という説が最も有力です。ただし、まだ決着はついていません。
アフリカのサバンナで、シマウマの群れは遠くからでもよく目立ちます。草原の色にまぎれる茶色や灰色の動物が多い中で、くっきりとした白黒の縞模様は、いかにも場違いに見えます。
この縞はいったい何のためにあるのか。進化論のチャールズ・ダーウィンや、同じ時代の博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスの時代から、さまざまな説が唱えられてきました。答えに近づいたのは、ここ十数年のことです。
白地に黒? 黒地に白?
まずは、よくある疑問から。シマウマは白地に黒い縞なのでしょうか、それとも黒地に白い縞なのでしょうか。
毛の色だけを見ると、おなかや脚の内側には縞がなく白いことが多いため、白地に黒い縞が入っているように見えます。ところが毛を刈ると、その下の皮膚は全身が黒っぽい色をしています。どちらが「地」なのかは、何を基準にするかで答えが変わってしまうのです。
縞の模様は1頭ごとに違い、親から子へと受け継がれる性質もあるとされています。人間の指紋のように、模様で個体を見分けることもできます。
隠れる、惑わす、冷やす
縞の役割として、これまでに主に次のような説が出されてきました。
ひとつは、身を隠すためという説です。ところが、シマウマは群れで騒がしく暮らす動物で、こっそり隠れる生き方には見えません。2014年の研究でも、縞の濃さと、森林のような隠れやすい環境との間に関係は見つかりませんでした。
ふたつめは、群れが走ると縞がちらついて、ライオンなどの捕食者の目を惑わすという説です。コンピューターを使った研究で錯覚が起きる可能性が示された一方、ライオンは近づいてシマウマを難なく襲っているという反論もあります。
みっつめは、黒い縞と白い縞の温度差で体を冷やすという説です。暑い地域ほど縞がくっきりしているという分析もありますが、縞を描いた容器で温度を比べた実験では、冷却の効果は確かめられませんでした。仲間どうしで見分け合うためという説も含め、どれも決め手に欠けていたのです。
アブが「着地」に失敗する
そこで注目されたのが、血を吸うハエのなかまを避けるためという説です。1930年にはすでに、ハエが無地のものより縞模様のものに止まりにくいことが報告されていました。2014年には、アメリカのカリフォルニア大学デービス校のティム・カロさんらが、縞の濃い動物が住む地域と、アブやツェツェバエが多い地域がよく重なることを示しました。
決定打のひとつが、カロさんらが2019年に発表した実験です。イギリスの牧場で、シマウマとウマのまわりを飛ぶアブを観察すると、アブはどちらにも同じように近づいてきました。ところがシマウマの場合、アブは最後の瞬間にうまく減速できず、体にぶつかったり通り過ぎたりして、なかなか着地できなかったのです。さらに、ウマに黒、白、縞模様の布をかぶせて比べると、縞模様のときだけアブの着地が大きく減りました。
なぜ縞がアブを惑わすのかについては、近づいたときに目の前の景色がうまく読み取れなくなる、白黒の強いコントラストが着地をむずかしくする、などの説があり、まだ議論が続いています。それでも2025年に出された総説では、アブよけ説が最も多くの証拠に支えられていると評価されています。
ウシにも効いた縞模様
この説を日本で確かめたのが、当時愛知県農業総合試験場にいた兒嶋朋貴さん(現在は農研機構)らのチームです。2019年に発表された研究では、黒毛和牛の体に白い塗料で縞模様を描き、何も描かないウシや、黒い塗料で縞を描いたウシと比べました。黒い縞のウシを用意したのは、塗料のにおいの影響ではないことを確かめるためです。
結果、白黒の縞を描いたウシに止まる吸血性のハエやアブの数は、ほかのウシのおよそ半分になりました。虫を追い払うために頭や尾を振る回数も減っていました。殺虫剤に頼らない虫よけになるかもしれないこの研究は、2025年に「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られるイグ・ノーベル賞の生物学賞を受賞しています。
アフリカのアブやツェツェバエは、血を吸うだけでなく病気を運ぶこともあります。シマウマの縞は、そうした虫から身を守る「着る虫よけ」なのかもしれません。