カラスはどれくらい賢い?
道具を作り、人の顔を何年も覚えるほどです。脳には神経細胞がぎっしり詰まっています。
12億個
日本語には「鳥頭」という言葉があります。三歩歩けば忘れてしまう、もの覚えの悪さをからかう表現です。鳥の脳は小さいのだから、たいしたことは考えられないだろう。そんな思い込みが、この言葉の背景にはあるのかもしれません。
ところが、この数十年の研究で、その常識を大きく揺るがしてきた鳥がいます。毎朝のようにゴミ置き場で見かける、あのカラスの仲間です。
針金を曲げてフックを作る
2002年、イギリスのオックスフォード大学の研究チームが、科学誌「サイエンス」に一本の論文を発表しました。主役は「ベティ」と名づけられた、カレドニアガラスのメスです。
実験では、細い筒の底に、取っ手のついた小さなバケツに入った餌が置かれていました。まっすぐな針金では、バケツを引き上げられません。するとベティは、針金の端をすき間に押し込んで固定し、反対側をくちばしで引っぱって曲げると、できたフックでバケツを釣り上げたのです。その後の試行でも、彼女は10回のうち9回、自分で針金を曲げて餌を手に入れました。
南太平洋のニューカレドニア島にすむこのカラスは、野生でも道具を作ることで知られています。小枝の先を削ってかぎ状に整えたり、トゲのある葉を切り取って細長い道具にしたりして、木の穴にひそむ虫を引き出すのです。
カラスの仲間の賢さを示す実験は、ほかにもあります。2009年には、ミヤマガラスが水の入った筒に石を落として水位を上げ、浮かんだ虫を食べることが報告されました。イソップ物語の「カラスと水差し」そのままの行動です。
一度ひどい目にあった顔は忘れない
カラスは、人の顔もよく覚えています。アメリカ・ワシントン大学のジョン・マーズラフ教授らは、2006年、原始人をかたどったゴムの仮面をかぶってキャンパスのアメリカガラス7羽を捕まえ、脚に標識をつけて放しました。
すると、その仮面をかぶった人が歩くたびに、カラスたちが激しく鳴き立てて威嚇するようになりました。驚くのはここからです。捕まったことのないカラスや、実験のあとに生まれた若いカラスまで、同じ仮面を威嚇するようになったのです。ピークの2013年には、出会った53羽のうち47羽が仮面に向かって騒ぎ立てたといいます。一方、別の「無害な」仮面にはほとんど反応しませんでした。
仮面への警戒は、群れの中で受け継がれながら17年近く続き、2023年になってようやく見られなくなったと報告されています。
自動車をくるみ割り器にする
日本のカラスにも、有名なエピソードがあります。1990年前後から、宮城県仙台市の東北大学やその周辺で、ハシボソガラスが車にくるみをひかせて割る行動が観察されるようになりました。
心理学者の仁平義明さんと鳥類学者の樋口広芳さんの観察によると、カラスたちは信号待ちで止まった車のタイヤの前にくるみを置き、車が走り去ったあとで割れた中身を食べていました。置き直したり、ちょうどよい時間まで待ったりする様子も見られ、偶然ではなく意図的な行動だと考えられています。ただし、くるみを空中から落として割るほうが一般的で、車を使うのは一部の地域や個体に限られるようです。
小さな脳にぎっしり詰まった神経細胞
それにしても、なぜ小さな脳でこれほどのことができるのでしょう。
ヒントのひとつが、2016年に発表された研究です。鳥の脳の神経細胞を数えたところ、カラスやオウムの仲間の脳には、同じ重さの霊長類の脳のおよそ2倍もの神経細胞が詰まっていることがわかりました。たとえばワタリガラスの大脳にあたる部分には、推定で約12億個。これは、賢いサルとして知られるオマキザルの大脳皮質を上回る数です。鳥の脳は小さくても、中身の密度がまったく違っていたのです。
最近では、カッコの入れ子のような複雑な規則を、ハシボソガラスが幼い子どもに迫る正確さで扱えたという研究も報告されています。「鳥頭」という言葉は、少なくともカラスにはまったく当てはまらないといえそうです。