コアラはなぜ一日中眠っている?
栄養が少なく消化に手間のかかるユーカリの葉だけで暮らすため、眠ってエネルギーを節約しているからです。
22時間
動物園のコアラ舎の前に立つと、たいていコアラは木の枝の分かれ目にはさまるようにして、じっと目を閉じています。しばらく待っても、ほとんど動きません。「今日はたまたま眠いのかな」と思うかもしれませんが、実はこれがコアラのふだんの姿です。
オーストラリア・コアラ基金によると、コアラは1日に18〜22時間も眠って過ごします。起きているのは、残りのわずかな時間だけ。いったいなぜ、これほど眠り続けるのでしょうか。
起きているのは、ほとんど食事の時間
コアラはオーストラリア東部の森にすむ有袋類で、主に夜に活動します。起きているあいだにすることの多くは、ユーカリの葉を食べることです。食事は1日に数回に分けてとり、食べる葉の量は1日におよそ200〜500グラムです。
ほかのコアラと関わり合う時間は、1日にわずか15分ほどともいわれます。食べて、眠って、また食べる。コアラの1日は、ほとんどこれだけでできているのです。
ユーカリは「割に合わない」ごはん
長い眠りの理由は、このユーカリの葉にあります。ユーカリの葉は、硬い繊維が多いわりに栄養がとても少なく、しかも多くの動物にとっては毒になる成分を含んでいます。これを主食にできる哺乳類は、コアラのほかにはフクロムササビやリングテイルポッサムなど、ごくわずかです。
コアラは、この食べにくい葉から少しでも栄養を引き出すために、特別な消化器官をもっています。大腸の一部である盲腸は長さが約2メートルもあり、その中にすむたくさんの細菌が、硬い繊維をゆっくり分解します。それでも、食べた繊維のうち吸収できるのは4分の1ほどにすぎません。
手に入るエネルギーが少ないなら、使うエネルギーを減らすしかありません。コアラの代謝の速さは、一般的な哺乳類の半分ほどといわれます。食べたものを長い時間おなかにとどめて栄養をしぼり出しつつ、体はできるだけ動かさない。長い眠りは、少ない収入でやりくりするための節約術なのです。
「ユーカリで酔っている」は誤解
コアラがいつも眠そうなのは、ユーカリの毒で酔っぱらっているから、という話を聞いたことがあるかもしれません。しかし、これは誤解です。コアラ基金も、ユーカリの葉がコアラを「酔わせる」わけではないと説明しています。
コアラの体は、ユーカリの毒をきちんと処理できるようにできています。2018年に発表されたコアラの全ゲノムの解析では、毒を分解する酵素(シトクロムP450)をつくる遺伝子の一部が大きく増えていて、肝臓でさかんに働いていることがわかりました。毒にやられて眠っているのではなく、毒を処理しながら、エネルギーを節約するために眠っているのです。
ちなみに、ユーカリはオーストラリアに600種以上ありますが、コアラはどれでも食べるわけではありません。ある地域で主に食べるのは、そのうち1〜3種ほどだけという、かなりの偏食家です。また、赤ちゃんは離乳の時期に、母親のおしりから出る「パップ」という柔らかいフンを食べます。これは、ユーカリの消化に必要な細菌を受け継ぐためだと考えられています。
暑い日は、木に抱きついて涼む
動かずにじっとしているコアラですが、暑さへの対策には工夫があります。2014年にオーストラリアの研究チームが発表した調査では、暑い日のコアラは、気温より温度の低い木の幹を選んで体を押しつけていることがわかりました。幹の温度が気温より5℃以上低い木もあったといいます。
ひんやりした幹に体の熱を逃がせば、あえぐような呼吸などで体を冷やすために使う水分を大きく節約できます。めったに水を飲まないコアラにとって、これは大切なことです。木に抱きついて眠る姿は、かわいいだけでなく、なかなか合理的なのです。