金魚の記憶は3秒って本当?
俗説です。実験では、金魚は学んだことを数か月にわたって覚えていられると報告されています。
「金魚の記憶は3秒しかもたない」。そんな話を聞いたことはないでしょうか。丸い金魚鉢の中をひと回りするたびに、目に映る景色を新鮮に感じているから退屈しないのだ、という説明が添えられることもあります。
物忘れの激しい人を、からかい半分に金魚にたとえる言い回しまであるほどです。けれど、実際に金魚の記憶を調べた研究者たちの結論は、まったく違うものでした。
3秒説には根拠がない
まず、「3秒」という数字には、元になった研究が見当たりません。いつ、誰が言い始めたのかもはっきりしない、出どころ不明の俗説なのです。
この説が広まった理由として、金魚の飼われ方を挙げる研究者もいます。何もない小さな丸い鉢の中では、金魚は能力を発揮する機会がほとんどありません。ぐるぐると泳ぎ回る姿だけを見ていれば、「何も考えていない」ように見えてしまうのも無理はないでしょう。
ところが、金魚は昔から、魚の学習や記憶を調べる研究の代表的な実験動物でした。飼いやすく、丈夫で、餌を使った訓練によく反応するからです。
決まった時間にレバーを押す
よく知られているのは、イギリスのプリマス大学で行われた実験です。研究者たちは、レバーを押すと餌が出てくる装置を水槽に取り付けました。金魚はすぐに、レバーを押せば餌がもらえることを覚えました。
次に、レバーを押しても餌が出るのは1日のうち決まった1時間だけ、というルールに変えました。すると金魚たちは、餌が出る時間帯に集中してレバーを押すようになったのです。金魚は「レバーと餌の関係」だけでなく、「いつ押せばよいか」まで学んでいたことになります。
研究にかかわった心理学者は、金魚の記憶は少なくとも3か月はもつと述べています。毎日同じ時間に餌をやっていると、その時間になると水槽の前に集まってくる。金魚を飼ったことのある人なら、思い当たる光景かもしれません。
15歳の少年が確かめた「6日後」
2008年には、オーストラリアのアデレードに住む15歳の少年が、学校の研究として金魚の記憶を調べ、話題になりました。
彼は水槽に目印を入れ、そこで餌を与えることを3週間続けました。はじめは目印にたどり着くまで1分ほどかかっていた金魚たちが、最後には数秒で泳ぎ寄るようになりました。その後、目印を6日間取り出してから再び入れたところ、金魚たちは約4.4秒で目印のところへ泳いでいったのです。小さな実験ですが、「3秒で忘れる」魚にはとてもできない芸当です。
金魚はむしろ、物覚えのよい魚です。色や形、音を区別できることも、さまざまな実験で確かめられてきました。目には赤・緑・青に加えて紫外線を感じる細胞もあり、人間とは違う色の世界を見ていると考えられています。
魚の記憶を生かす試み
魚が音や合図を覚えられるという性質は、実際の漁業にも応用されてきました。日本では、育てた稚魚に音を聞かせながら餌を与えて慣らし、海に放したあとも音で呼び寄せようとする「音響馴致(じゅんち)」という試みがあります。
たとえば大分県では、1980年代から、音響設備を備えた海洋牧場でマダイを対象にした取り組みが行われてきました。稚魚が音のする方へ近づくことは確かめられた一方、広い海に放したあとも長く呼び寄せ続けるのは簡単ではないことも指摘されています。それでも、魚が「合図と餌の関係」を覚えるという点では、水槽の金魚と同じ力を生かそうとしているのです。