「Wi-Fi」に意味はある?
特に意味はないとされます。「Hi-Fi」の響きをもとにブランド会社が考えた名前で、何かの略語ではありません。
カフェや駅、ホテルで「Wi-Fiあります」の表示を見かけない日はほとんどありません。スマートフォンやパソコンを使う人にとって、Wi-Fiはもはや水道や電気のような存在です。
では、「Wi-Fi」とは何の略でしょうか。「Wireless Fidelity(ワイヤレス・フィデリティ)の略」と答える人が多いかもしれません。実はこれ、半分は誤解なのです。
呼びにくかった「IEEE 802.11b」
Wi-Fiの正体は、電波でデータをやりとりする無線LANの技術です。その規格は、アメリカに本部を置く技術者の団体IEEEが定めていて、1997年に最初の規格「IEEE 802.11」が、1999年9月には最大で毎秒11メガビットの速さを持つ「IEEE 802.11b」がまとまりました。
ところが当時は、メーカーが違うと機器どうしがうまくつながらないという問題がありました。そこで1999年、3Com、ルーセント・テクノロジー、ノキアなどの企業が集まって業界団体を作り、異なるメーカーの製品がきちんとつながるかを試験して認定する仕組みを整えます。
ただ、「IEEE 802.11b準拠」では、一般の人にはまったく覚えてもらえません。もっと親しみやすい名前が必要でした。
「Hi-Fi」をもじった造語
名前づくりを任されたのは、ブランドづくりを手がけるインターブランドという会社でした。同社が示した10個の候補の中から選ばれたのが「Wi-Fi」です。
この名前は、オーディオの世界でおなじみの「Hi-Fi(ハイファイ)」の響きを意識して作られました。Hi-Fiは「High Fidelity(高い忠実度)」の略で、元の音を忠実に再現する、質の高い音響機器を指す言葉です。その響きを借りることで、「無線でも品質が高そう」という印象を持ってもらおうとしたのです。
「Wireless Fidelity」は後づけ
では、「Wireless Fidelity」はどこから出てきたのでしょうか。名前が決まった後、団体はしばらくの間、「The Standard for Wireless Fidelity(ワイヤレス・フィデリティの標準)」という宣伝文句を使っていました。これが広まり、「Wi-FiはWireless Fidelityの略」という説が定着してしまったのです。
けれども、団体の創設メンバーの一人、フィル・ベランジャーさんは、Wi-Fiは何かの略語ではなく、言葉そのものに特に意味はないと説明しています。宣伝文句は、名前ができたあとに付け加えられたものにすぎなかったというわけです。「Hi-Fi」をヒントにしたという名づけの発想と、「何の略でもない」という説明。どちらも、Wi-Fiが中身のある略語ではないことを示しています。
名前が技術を広めた
業界団体は2002年、名前を「Wi-Fiアライアンス」に改めました。いまでは、この団体の試験に合格した製品が「Wi-Fi認定」を名乗ることができます。
覚えやすい名前の効果は大きく、Wi-Fiは無線LANそのものを指す言葉として世界中に広まりました。日本でも、駅や店の案内には「無線LAN」と並んで「Wi-Fi」の文字が書かれるようになり、今ではこちらのほうがすっかりおなじみです。2018年には、Wi-Fiアライアンスが規格の呼び方も見直し、「IEEE 802.11ax」を「Wi-Fi 6」というように、世代を表す数字で呼ぶことにしています。意味を持たない短い名前が、難しい技術を誰にでも身近なものにしたのです。