タグから探す

    「ばか」の語源は?

    決め手はありません。僧が使った梵語「moha(無知)」が由来とする説が辞書では有力です。

    「ばかだなあ」「そんなばかな」「ばか正直」「親ばか」。「ばか」は、日本語のなかでもとびきり使われる言葉のひとつです。人を悪く言うときだけでなく、あきれたとき、照れたとき、親しみをこめるときにも顔を出します。

    ところで、この言葉を漢字で書くと「馬鹿」。なぜ馬と鹿なのでしょうか。どちらの動物も、とくに愚かなわけではありません。調べてみると、この二文字には、少しややこしい事情があることがわかります。

    「馬鹿」は当て字

    まず押さえておきたいのは、「馬鹿」という漢字は当て字だということです。当て字とは、言葉の意味とは関係なく、音が合う漢字をあてはめた書き方のことです。

    実際、「ばか」には昔からいろいろな書き方がありました。「馬鹿」のほかに「莫迦」「馬稼」「破家」などもあり、どれも「ば」と「か」の音を表しているだけです。いまでは「馬鹿」がいちばん広まりましたが、馬と鹿そのものに意味があるわけではありません。

    言葉としての「ばか」は、室町時代の中ごろの辞書『文明本節用集』にすでに見えるとされています。少なくとも500年以上前から使われてきた言葉なのです。

    鹿を指して馬と言った話

    それでも「馬鹿」と聞くと、ある中国の故事を思い出す人もいるでしょう。「鹿を指して馬となす」という話です。

    紀元前3世紀の中国、秦の時代のこと。権力を握った趙高(ちょうこう)という人物が、自分に逆らう者を見分けようと、皇帝に鹿を献上して「これは馬です」と言いました。周りの家臣のうち、趙高を恐れる者は「馬です」と調子を合わせ、正直に「鹿です」と答えた者は、のちに罰せられたといいます。司馬遷の歴史書『史記』に記された話で、日本でも『源氏物語』にこの故事を踏まえた場面が出てくるほど、古くから知られていました。

    砂地の木の根もとで、脚を伸ばして横たわる白い斑点のあるシカ
    奈良のニホンジカ。「馬鹿」の「鹿」を「か」と読むのは、日本語の訓読みです。出典: Jakub Hałun / CC BY 4.0 / Wikimedia Commons

    「馬鹿」の語源をこの話に求める説もありますが、専門家のあいだでは、後から結びつけられた俗説とみるのが一般的です。そもそもこの故事は、権力者の横暴を語る話で、「愚か」という意味とは直接つながりません。また、「鹿」を「か」と読むのは日本語の訓読みで、中国語の発音ではありません。「馬鹿」という字が先にあって、そこから故事が連想された、と考えるほうが自然でしょう。

    お坊さんの隠語だった?

    では、本当の語源は何なのでしょうか。じつは、決定的な答えはまだ出ていません。

    いちばんよく知られているのが、仏教の言葉から来たという説です。古代インドの言葉、サンスクリット語(梵語)には、「無知」や「迷い」を意味する「moha(モーハ)」という言葉があります。これを漢字で書き表した「莫迦」が、僧侶たちのあいだで隠語として使われ、それが一般に広まったというものです。江戸時代の学者が唱えた説で、『広辞苑』をはじめ、主な国語辞典の多くがこの説をとっています。

    ほかにも、禅の書物に出てくる、財産を失うことを意味する「破家(はか)」から来たとする説、中国の詩人白居易の詩に出てくる、ぜいたくで家を傾けた「馬家(ばか)」という一族から来たとする説、古い言葉の「はかなし」から来たとする説など、さまざまな考えが出されています。

    細長い茶色の葉の上に、インドの古い文字が何行にもわたって細かく書かれている
    ヤシの仲間の葉に梵語(サンスクリット語)で経文を記した「貝葉」。般若心経などが書かれたもので、奈良の法隆寺に伝わり、現在は東京国立博物館が所蔵しています。出典: 作者不明 / Public domain / Wikimedia Commons

    「アホ」と「バカ」の境界線

    「ばか」の歴史を考えるうえで、思わぬところから手がかりが現れたこともあります。1990年代初め、関西のテレビ番組『探偵!ナイトスクープ』が、視聴者の依頼をきっかけに、「アホ」と「バカ」の境界線を探す調査を始めたのです。

    番組は全国の市町村の教育委員会にアンケートを送り、1991年に「全国アホ・バカ分布図」を完成させました。すると、同じ意味の言葉が、京都を中心に同心円を描くように分布していることがわかりました。都で生まれた言葉が、波紋のように地方へ広がっていったと考える「方言周圏論」を裏づける結果で、言語学者からも高く評価されました。この調査をまとめた番組プロデューサーの松本修は、のちに「馬家」説を唱えています。

    次はこちらをどうぞ

    1. ことば約4分「サラリー」の語源は塩って本当?「ローマ兵は塩で給料を受け取っていた」。雑学の定番として語られるこの話、古代の記録をたどると、少し違う景色が見えてきます。
    2. ことば約4分「ホッチキス」は人の名前?書類をパチンと綴じる、机の上の定番の道具。英語圏では通じないこの呼び名には、ある発明家にまつわる有名な話がありますが、はたして本当でしょうか。
    3. ことば約4分「クイズ」は賭けで作られた言葉?ダブリンの劇場主が、意味のない言葉をたちまち流行らせると賭けをした――。有名な「クイズ」誕生秘話です。記録をたどると、話は意外な方向へ。
    4. ことば約4分「サボる」はフランス語から来た?授業や仕事を「サボる」。すっかり日本語の顔をしているこの言葉は、100年ほど前、ある出来事をきっかけに広まりました。
    5. ことば約4分「やばい」はいつから使われている?若者言葉の代表のように言われる「やばい」。ところが古い本をひもとくと、思いがけない時代にこの言葉の祖先が見つかります。
    6. ことば約4分「シャンプー」の語源は?毎日のように使っている「シャンプー」。英語から来た言葉だと思いがちですが、さかのぼるとインドにたどり着きます。しかも最初は、髪を洗う意味ですらありませんでした。
    7. ことば約4分「いただきます」はいつから言うようになった?手を合わせて「いただきます」。何百年も前から続く日本の伝統のように思えますが、その歴史をたどってみると、意外な姿が見えてきます。
    8. ことば約4分「ズボン」の語源は?毎日のようにはいているのに、どこの国の言葉なのかよくわからない「ズボン」。調べてみると、ペチコートと幕府の役人が登場する、ちょっとした謎が待っていました。