「サラリー」の語源は塩って本当?
答え
ラテン語の「塩」が語源なのは確かですが、兵士が塩で給料をもらった証拠はありません。
月給のことを英語で salary(サラリー)といい、日本語にも「サラリーマン」という言葉ですっかり根づいています。この salary の語源は「塩」だ、という話を聞いたことがあるでしょうか。古代ローマの兵士は塩で給料を受け取っていたので、塩を意味する言葉が給料の意味になった、というものです。
塩がかつて貴重品だったことを思えば、いかにもありそうな話です。実際、本や雑学サイトでもよく紹介されています。ところが歴史学者たちの見解は、もう少し慎重です。
たしかに「塩」から生まれた言葉
まず、確かなところから見ていきましょう。英語の salary は、ラテン語の salarium(サラリウム) に由来します。そしてこの salarium が、ラテン語で塩を意味する sal(サル)と関係していることは、多くの辞書や研究者が認めるところです。ここまでは通説どおりです。
問題は、なぜ「塩」にまつわる言葉が「給料」の意味になったのか、という点です。ここから先は、確かな記録が急に少なくなります。
ローマ兵は本当に塩で給料をもらったのか
ローマの兵士の給料は、スティペンディウムと呼ばれ、貨幣で支払われていました。給与の額や、そこから食料や装備の代金が差し引かれていたことは、当時の記録からある程度わかっています。一方で、兵士の給料が塩そのもので支払われていたと書いた古代の史料は見つかっていません。
よく根拠として持ち出されるのが、1世紀のローマの博物学者、大プリニウスの『博物誌』です。プリニウスは塩の重要性を語るなかで、給料を意味する salarium という言葉が塩に由来すると記しています。けれども、兵士が塩を現物で受け取っていたとまでは書いていません。また、ネット上でプリニウスの言葉として流通している文章の中には、原典に見当たらないものもあると指摘されています。
では salarium はもともと何だったのか。塩を買うための手当を指していたという説、塩を運ぶ街道「サラリア街道」の警備に関係していたという説などがありますが、どれも決め手に欠け、はっきりしたことはわかっていません。語源が塩なのは確かでも、その間をつなぐ物語は、のちの時代の人々が想像でふくらませた部分が大きいようです。
「塩から来た言葉」と「塩で払われた給料」は、似ているようでまったく別の話です。
食卓に残る、塩の親戚たち
給料の話はひとまず置いておくとして、ラテン語の sal の子孫は、実は私たちの食卓にたくさん並んでいます。
たとえばサラダ(salad)。野菜に塩をふって食べたことから、「塩をした」という意味の言葉がもとになったと考えられています。ソース(sauce)やサルサ(salsa)も、塩で味つけしたもの、という意味の言葉にさかのぼります。ソーセージ(sausage)もまた、塩をした肉を意味するラテン語の流れをくむとされています。塩味をつけることが、そのまま料理の名前になったわけです。
塩は保存と味つけの両方に欠かせない、文字どおり生活の基本でした。だからこそ、こうした言葉が生まれ、長く受け継がれてきたのでしょう。
「ソルジャー」は塩ではなく金貨から
もうひとつ、混同されやすい言葉があります。兵士を意味する soldier(ソルジャー)です。「サラリー」と響きが少し似ているため、これも塩から来ていると思われがちですが、こちらはローマ帝国後期の金貨「ソリドゥス(solidus)」に由来するとされています。お金で雇われて戦う人、というのがもとの意味です。
兵士の名前のほうがお金に由来していて、給料の名前のほうが塩に由来している。言葉の歴史は、ときどきこんなふうにねじれた形で私たちの前に現れます。