「クイズ」は賭けで作られた言葉?
賭けの話は作り話とみられます。「quiz」は賭けの年より前から使われ、語源はわかっていません。
テレビのクイズ番組、学校の小テスト、スマートフォンのクイズアプリ。「クイズ」は、日本語でもすっかりおなじみの言葉です。もとは英語の「quiz」ですが、この言葉の生まれについては、とても有名な逸話があります。
それは、ある男の賭けから生まれた、というものです。言葉がひとつ、賭けのために発明された。そんなことが本当にあるのでしょうか。
ダブリンの劇場主の賭け
物語の舞台は、1791年のアイルランドの首都ダブリンです。劇場の支配人だったリチャード・デイリーは、仲間とこんな賭けをしました。「意味のない新しい言葉を、すぐに町じゅうに広めてみせる」。期限は24時間とも48時間ともいわれます。
デイリーは劇場で働く者や町の子どもたちを集め、夜のうちに町じゅうの壁という壁に、チョークで「QUIZ」と書かせました。翌朝、ダブリンの人々は見慣れない謎の4文字に首をかしげ、「クイズって何だ?」と口々にうわさしました。こうしてデイリーは賭けに勝ち、「quiz」という言葉が生まれた――というのです。
いかにも痛快な話で、いまでも「クイズ」の語源として紹介されることがあります。ただ、この話には大きな問題があります。
賭けの前から「quiz」はあった
決定的なのは、デイリーが賭けをしたとされる年より前に、「quiz」という言葉がすでに使われていたことです。
イギリスの作家ファニー・バーニーが書き残した日記には、1782年6月の日付の記述にこの言葉が登場します。オックスフォード英語辞典でも、最も古い例は1782年とされています。さらに、アイルランドの新聞にも、賭けがあったとされる1791年8月より2か月ほど前に、「quiz」を使った詩が掲載されていたことが指摘されています。つまり、賭けの時点で、この言葉は少なくとも10年近く前から使われていたのです。
また、賭けの話が印刷物に現れるのは、19世紀になってからのことです。事件から40年以上もたってから語られ始めた話であり、**後から作られた「語源伝説」**だと考えられています。
もとは「変わり者」という意味
では、もともとの「quiz」はどんな意味だったのでしょうか。
18世紀の終わりごろ、「quiz」は「風変わりな人」「おかしな格好をした人」を指す言葉でした。また、「冗談」「人をからかうこと」という意味もありました。どうやら当時の若者や学生たちが使っていた俗語だったようです。
それが19世紀になると、「じろじろ見る」「あれこれ問いただす」という意味でも使われるようになります。「質問(question)」や「詮索好きな(inquisitive)」といった言葉の響きに引っぱられたのではないか、ともいわれます。片眼鏡が「クイジング・グラス」と呼ばれるようになったのも19世紀のことで、人をじろじろ眺める(quiz)ための眼鏡、というわけです。そして19世紀後半のアメリカで、「簡単な試験」「口頭試問」という、いまの意味が生まれました。
語源そのものについては、ラテン語の「qui es?(あなたは誰?)」から来たという説などもありますが、どれも決め手に欠け、いまも「語源不明」とされています。
日本では戦後のラジオから
日本で「クイズ」という言葉が広まったのは、第二次世界大戦のあとのことです。1946年12月にNHKのラジオ番組『話の泉』が、翌1947年11月には『二十の扉』が始まり、人気を集めました。どちらも、占領軍の指導のもとで、アメリカのクイズ番組を手本にしてつくられた番組でした。
当初は、quizの訳語として「当てもの」という言葉が使われた時期もありましたが、1951年ごろからカタカナの「クイズ」が定着していったとされています。