唐辛子はなぜ辛い?
辛み成分カプサイシンが、熱を感じるセンサーを刺激し、脳が「熱い・痛い」と受け取るからです。
43℃
激辛のカレーや麻婆豆腐をひと口食べると、額に汗がにじみ、口の中がかっと燃えるように感じます。英語では辛いことを「ホット」と言いますし、日本語でも「火を噴くような辛さ」と表現します。けれども、温度計を口に入れても、実際の温度はほとんど変わっていません。
では、あの燃えるような感覚はどこから来るのでしょう。その正体をたどると、私たちの体が唐辛子にまんまと「だまされて」いることがわかってきます。
辛さは「味」ではなかった
甘味、塩味、酸味、苦味、うま味。舌の味蕾がとらえる基本の味はこの五つで、実は辛味は含まれていません。辛さは味というより、痛みや熱さに近い感覚なのです。
唐辛子の辛み成分はカプサイシンです。口の中の神経の末端には、TRPV1(トリップ・ブイワン)と呼ばれるセンサーがあります。このセンサーは本来、およそ43度を超える熱に反応して「熱い、危ない」という信号を脳へ送る役目をもっています。ところがカプサイシンは、このセンサーにぴたりとくっついて、熱がなくてもスイッチを入れてしまいます。脳は届いた信号を素直に受け取り、「口の中が焼けている」と判断します。汗が出たり顔が赤くなったりするのも、体が熱を逃がそうとする反応だと考えられています。
このセンサーを突き止めたのは、アメリカの生理学者デヴィッド・ジュリアスらの研究チームで、1997年のことでした。ジュリアスはこの業績などにより、2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。唐辛子という身近な食べものが、人が熱や痛みを感じるしくみを解き明かす鍵になったのです。
辛いのは種ではなく「わた」
唐辛子を料理するとき、「種を取ると辛さが和らぐ」と言われます。ただ、カプサイシンをつくっているのは種そのものではありません。実の内側で種をくっつけている白い筋、植物学で胎座と呼ばれる部分にとくに多く含まれています。種が辛く感じるのは、すぐそばの胎座からカプサイシンが移っているためです。
辛さの強さは、1912年にアメリカの薬剤師ウィルバー・スコヴィルが考案した「スコヴィル値」で表されます。唐辛子の抽出液を砂糖水で薄めていき、人が辛さを感じなくなるまで何倍に薄めたかを数える方法です。現在は機械で成分量を測って換算するのが一般的で、純粋なカプサイシンはおよそ1600万という桁違いの値になるとされています。
鳥はへっちゃら
不思議なことに、鳥は唐辛子の辛さをほとんど感じません。ニワトリのTRPV1を調べた2002年の研究で、鳥のセンサーは熱には反応するものの、カプサイシンにはほとんど反応しないことが明らかになりました。
これには唐辛子の生存戦略が関わっている、という有力な説があります。ネズミなどの哺乳類は実をかじると種まで噛み砕いてしまいますが、鳥は種を丸ごと飲みこみ、遠くへ運んでフンと一緒に落としてくれます。辛さで哺乳類だけを追い払い、種まきの上手な鳥には食べてもらう。2001年には、野生の唐辛子を使った実験でこの考えを支持する結果が報告されました。
水を飲んでも消えないわけ
辛いものを食べて慌てて水を飲んでも、なかなか楽になりません。カプサイシンは油に溶けやすく、水にはほとんど溶けないからです。水で口をゆすいでも、センサーにくっついた成分はなかなか流れてくれません。
辛さを和らげたいときは、牛乳やヨーグルトがよいといわれます。乳に含まれる脂肪やたんぱく質が、カプサイシンを包みこんで引きはがしてくれると考えられています。インド料理にラッシーが添えられるのは、なかなか理にかなった組み合わせなのです。
それにしても、人はなぜ痛いとわかっている辛さをわざわざ求めるのでしょう。安全だとわかっている「怖さ」を楽しむ、ジェットコースターのような快感ではないかとする説もありますが、はっきりした答えはまだ出ていません。