イチゴのツブツブは種じゃないって本当?
答え
本当です。ツブツブの一つひとつが「痩果」という果実で、種はその中に入っています。
200〜300個
イチゴを指でつまむと、表面にびっしり並んだ小さなツブツブが指先に触れます。「これがイチゴの種だよ」と子どものころに教わった人も多いのではないでしょうか。見た目も、歯にはさまる感じも、いかにも種らしいふるまいです。
ところが植物学の世界では、この説明には訂正が入ります。あのツブツブは種ではなく、それ自体がひとつの「果実」なのです。では、私たちが食べている甘くて赤い部分は何なのでしょう。
ツブツブの中に、本物の種がある
イチゴの表面のツブツブは、**痩果(そうか)**と呼ばれる果実です。痩果とは、果皮が薄くて硬く、中に種がひとつだけ入っている、乾いたタイプの果実のこと。ヒマワリの「種」として売られているものも、実は殻ごと痩果です。
つまりイチゴのツブツブは、硬い果皮に包まれた小さな果実で、その内側に本当の種が収まっています。1粒のイチゴには、品種や大きさによって違いますが、200〜300個ほどの痩果がついているといわれます。私たちはイチゴをひと口かじるたびに、数百個の果実をまとめて食べていることになります。
赤い部分の正体は「花の土台」
それでは、あの赤くてみずみずしい部分は何かというと、花托(かたく)と呼ばれる部分です。花床(かしょう)ともいい、花びらやめしべを支えている、花の付け根の土台にあたります。
イチゴの花の中心には、小さなめしべがたくさん集まっています。受粉すると、めしべの一つひとつが痩果になり、それを乗せている花托がぐんぐんふくらんで、あの赤い姿になるのです。このように、子房以外の部分が大きく育って果実のように見えるものを、植物学では「偽果(ぎか)」と呼びます。リンゴやナシの食べている部分も、同じく花托が発達したものです。
面白いことに、花托がふくらむにはツブツブの存在が欠かせません。痩果の中で育つ種が、成長をうながす植物ホルモンを出しているからです。受粉がうまくいかずに痩果が育たなかった場所は、花托もふくらまず、いびつな形のイチゴになります。形の整ったイチゴは、ツブツブがまんべんなく実った証拠ともいえます。
「果物」の定義は、誰に聞くかで変わる
植物学でいう「果実」は、花のめしべの子房が育ったもので、種を守り、運ぶための器官です。この定義にしたがえば、イチゴで果実と呼べるのはツブツブのほうで、赤い部分は厳密には果実ではありません。
一方で、私たちが日常で使う「果物」は、甘くてデザートとして食べるもの、くらいの感覚的な言葉です。さらに農業の分類では、話がもうひと回りします。日本の農林水産省の統計では、イチゴは木ではなく草に実ることから、メロンやスイカと同じく「果実的野菜」として野菜に分類されています。
植物学では赤い部分は果実ではなく、農業の統計では野菜で、食卓では果物。イチゴはひとつで三つの顔を持つ、なかなか複雑な存在なのです。
ツブツブの数は、ひとつひとつの「受粉」の数
痩果の一つひとつは、もともとひとつのめしべでした。つまり、きれいに整ったイチゴ1粒の裏には、数百回分の受粉が隠れています。ハウス栽培のイチゴ農家がミツバチを放すことが多いのは、花の中をまんべんなく歩き回ってもらい、すべてのめしべに花粉を届けてもらうためです。
次にイチゴを食べるときは、ひと口の前に少しだけ表面を眺めてみてください。あの小さな粒の数だけ、花の中で受粉が成功したのです。