はちみつは本当に腐らないの?

答え

条件がそろえば、ほぼ腐りません。ただし1歳未満の赤ちゃんには与えてはいけません。

20%

はちみつに含まれる水分(約)

戸棚の奥から、いつ買ったのか思い出せないはちみつの瓶が出てくることがあります。白く固まっていたり、色が濃くなっていたりしても、ふたを開けると甘い香りはそのまま。パンやヨーグルトなら数日で傷むのに、なぜはちみつだけは平然としていられるのでしょう。

「はちみつは腐らない」という言葉は、半分は本当で、半分は少しだけ言い過ぎです。その理由をたどると、ミツバチという小さな化学者の手際のよさが見えてきます。

微生物が「乾いて」しまう食べもの

はちみつは、およそ8割が糖分で、水分は約17〜20%しかありません。しかも、その少ない水も糖の分子にしっかりつかまえられていて、微生物が自由に使える状態にはありません。この「自由に使える水の割合」を示すのが水分活性という指標で、はちみつはおおむね0.6前後と、多くの細菌が増えられる水準を大きく下回ります。

それどころか、細菌やカビがはちみつの中に入りこむと、濃い糖液に水分を吸い取られ、浸透圧の差で干からびてしまいます。砂糖漬けやジャムが日持ちするのと同じ理屈を、はちみつは天然でやってのけているわけです。

酸っぱくて、ほんのり消毒液

甘いはちみつですが、実はかなりの酸性です。pHはおよそ3.2〜4.5で、多くの細菌が好む中性付近とはかけ離れています。ふだん酸味を感じないのは、圧倒的な甘さが舌をごまかしているからです。

さらに、ミツバチは集めた花の蜜をはちみつに仕上げる過程で、グルコースオキシダーゼという酵素を加えます。この酵素がブドウ糖に働くと、ごく微量の過酸化水素が生まれます。過酸化水素は傷口の消毒に使われるオキシドールの主成分です。乾燥、酸性、そして消毒成分。はちみつは何重もの守りで微生物を寄せつけないのです。

はちみつで満たされ、蜜ろうでふたをされた巣房が並ぶ巣板
はちみつで満たされ、蜜ろうのふたで封をされた巣房。ミツバチは仕上げたはちみつをこうして巣にたくわえます。出典: Waugsberg / CC BY-SA 3.0 / Wikimedia Commons

ただし、この守りは水分が少ないことが前提です。はちみつは湿気を吸いやすく、ふたを開けっぱなしにしたり、濡れたスプーンを入れたりして水分が増えると、耐糖性の酵母が働いて発酵することがあります。市販品に賞味期限が書かれているのも、色や風味が少しずつ変わっていくためです。

古代の墓のはちみつは食べられたのか

「エジプトの墓から見つかった数千年前のはちみつが、まだ食べられた」という話は世界中で語られています。古代エジプトではちみつが貴重品として扱われ、神殿や墓への供え物にもされていたことは、壁画や文書からよく知られています。けれども、誰がいつ、どの墓のはちみつを実際に味見したのか、はっきりした記録はなかなか見つかりません。魅力的な逸話として、少し距離を置いて楽しむのがよさそうです。

古代エジプトの壁画の模写。積み重ねた筒形の巣箱の前で、二人の男性がはちみつを採っている
紀元前15世紀ごろの高官レクミラの墓(テーベ、TT100)に描かれた養蜂の場面の模写。積み重ねた巣箱から、はちみつのつまった巣を取り出しています。出典: Nina M. Davies / CC0 / Wikimedia Commons

一方、信頼できる研究もあります。2025年、イタリア南部パエストゥムの古代ギリシャの神殿跡で1954年に見つかった青銅の壺について、英オックスフォード大学などのチームが分析結果を発表しました。紀元前6世紀の壺に残っていた物質から、はちみつや蜜ろうの痕跡が確認されたのです。ただし、それは長い年月で変質した残留物で、もちろん食べられる状態ではありませんでした。腐りにくいことと、永遠に変わらないことは別の話です。

赤ちゃんにだけは、まだ早い

はちみつの話で決して忘れてはいけないのが、1歳未満の赤ちゃんには与えないということです。はちみつには、まれにボツリヌス菌の芽胞が混じっていることがあります。芽胞は菌が厚い殻をまとった休眠状態のようなもので、はちみつの中でも、ふつうの加熱でも生き残ります。

大人や1歳を過ぎた子どもなら、腸内細菌がととのっているため、芽胞を飲みこんでも問題になることはほとんどありません。しかし腸内環境が未熟な乳児では、芽胞が腸で発芽して毒素をつくり、乳児ボツリヌス症を起こすことがあります。日本でも2017年、市販のジュースにはちみつを混ぜて与えられていた生後6か月の赤ちゃんが、乳児ボツリヌス症で亡くなる事例がありました。はちみつ入りの飲み物や焼き菓子も含めて、1歳の誕生日までは避けるのが原則です。

次はこちらをどうぞ

  1. 食べもの約4分回転寿司のわさびは本物?皿の脇の小袋や、カウンターのわさび入れ。そのツンとした辛さの持ち主は、実は日本の沢育ちとは限りません。原材料欄を読むと、意外な名前が並んでいます。
  2. 食べもの約4分イチゴのツブツブは種じゃないって本当?ショートケーキの上の、あのつややかな赤。私たちが「果肉」だと思って食べている部分は、植物学の目で見ると少し意外な正体をしています。
  3. 歴史約4分オックスフォード大学とアステカ帝国、古いのはどっち?石造りの神殿と、今も学生が通う大学。どちらが古いかと聞かれたら、たいていの人は直感で間違えてしまいます。
  4. 歴史約4分クレオパトラとピラミッド、時代が近いのはどっち?古代エジプトと聞けば、女王もピラミッドも同じ一枚の絵に収まりそうです。でも実際には、両者のあいだに途方もない時間が横たわっています。
  5. ことば約4分「サラリー」の語源は塩って本当?「ローマ兵は塩で給料を受け取っていた」。雑学の定番として語られるこの話、古代の記録をたどると、少し違う景色が見えてきます。
  6. 植物約4分バナナは木じゃないって本当?人の背丈をはるかに超えて育つのに、植物学の上では草の仲間。しかもその実は、イチゴよりもずっと正統派の「ベリー」なのです。
  7. 宇宙約4分1日が1年より長い惑星があるって本当?地球のすぐ隣に、時間の感覚がまるで逆さまの惑星があります。そこでは太陽が西から昇ります。
  8. 動物約4分タコの心臓はいくつある?泳ぐと止まる心臓、銅でできた青い血、考える腕。身近な食材のはずのタコは、調べるほど別の惑星の住人のように見えてきます。