年を取ると時間が速く感じるのはなぜ?
1年が人生に占める割合や、新しい出来事の記憶の量で説明されますが、まだ決着していません。
年末になると、「今年も早かったね」という言葉をあちこちで耳にします。子どものころは、夏休みの40日ほどが果てしなく長く感じられたのに、大人になると1年が飛ぶように過ぎていく。そんな実感を持つ人は多いでしょう。
この「年を取るほど時間が速くなる」という感覚には、昔からいくつもの説明が考えられてきました。ところが、実際に大勢の人に尋ねてみると、話は思ったより単純ではないようです。
1年は人生の何分の1か
いちばん有名な説明は、19世紀フランスの哲学者ポール・ジャネが1877年に発表した考えです。10歳の子どもにとって1年は人生の10分の1ですが、50歳の人にとっては50分の1にすぎません。時間の長さは、それまで生きてきた長さとの比較で感じられるので、年を取るほど1年が短く感じられる、というわけです。
この考えは、ジャネのおいで心理学者のピエール・ジャネが著書で紹介したこともあり、日本では「ジャネーの法則」という名前で広く知られています。
わかりやすく、思わずうなずきたくなる説明です。ただ、この比例の考え方をそのまま当てはめると、60歳の人にとっての1年は、20歳の人の3分の1の長さに感じられることになります。実感としては少し大げさですし、実験や調査で裏づけられたものではありません。心理学の世界では、そのまま支持する研究者はほとんどいないとされています。
「初めて」が少ないと、年月はしぼむ
もうひとつの有力な説明は、記憶に注目するものです。アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズは、1890年の著書『心理学原理』でジャネの考えを紹介し、現象をおおまかには言い表しているものの、心の基本的な法則とはいえないと述べました。そのうえで、こんなふうに書いています。
年を重ねるごとに、経験の一部はほとんど気にもとめない自動的な習慣に変わっていく。日々や週は記憶の中でならされて中身のない単位になり、年月はうつろになってしぼんでいく。
子どものころは、初めての学校、初めての旅行、初めての友だちと、新しい出来事にあふれています。大人になると毎日が決まった繰り返しになり、記憶に残る出来事が減っていきます。過ぎた1年を振り返ったとき、思い出せることが少ないほど、その1年は短く感じられる、という考え方です。
ジェームズは、若いころの思い出を「変化に富んだおもしろい旅をしていた時期」の記憶にたとえています。旅行中は新しいことの連続で一日があっという間に過ぎるのに、帰ってから振り返ると、その旅はずいぶん長かったように思える。その場で感じる時間の速さと、あとから思い出すときの長さは、必ずしも一致しないのです。
年齢の差は意外と小さい?
では、お年寄りは本当に若者より時間を速く感じているのでしょうか。2005年に発表された調査では、ドイツとオーストリアの14〜94歳の499人に、最近の1週間や1か月、1年がどれくらい速く過ぎたかを尋ねました。すると驚いたことに、年齢による違いはごくわずかでした。はっきりした差が出たのは「この10年はどれくらい速く過ぎたか」という質問だけで、10代から50代にかけて「速かった」と答える傾向が強まっていました。
2010年には、2か国の16〜80歳の1865人を対象にした研究でも、よく似た結果が出ています。どの年代の人も「時間は速く過ぎる」と答えていて、年齢の差は小さかったのです。この研究では、年齢そのものよりも、やることに追われている感覚の強さが、時間の速さの感じ方とよく結びついていました。
「時間が速い」という感覚は、お年寄りだけのものではなく、忙しく暮らす多くの大人に共通しているのかもしれません。比例説、記憶説、忙しさ説のどれがどこまで正しいのか、研究はまだ続いています。