あくびはなぜうつるの?
答え
はっきりとはわかっていません。共感や社会性との関係が有力視されつつ、議論が続いています。
向かいの席の人が大きなあくびをすると、こちらまでつられてしまう。誰もが経験のある、ありふれた現象です。ところが、この「あくびがうつる」仕組みは、実はまだ科学的にきちんと説明しきれていません。
さらに不思議なことに、あくびは実物を見なくてもうつることがあります。あくびをしている写真を見たり、あくびの音を聞いたり、それどころか「あくび」について書かれた文章を読むだけでも、あくびが出やすくなるといわれています。もし今、口元がむずむずしてきたなら、それもこの現象の一部かもしれません。
そもそも、あくびは何のため?
うつる理由の前に、あくびそのものの役割を考えてみましょう。かつては「酸素が足りなくなると、深く息を吸うためにあくびが出る」という説明がよく知られていました。しかし、酸素や二酸化炭素の濃度を変えてもあくびの回数はあまり変わらないという実験結果があり、現在ではこの説は有力ではないとされています。
代わりに注目されているのが「脳の冷却説」です。大きく口を開けて冷たい空気を吸い込み、顎を大きく動かすことで、頭部の血流が変わり、温まった脳を冷やしているのではないかという考え方です。気温によってあくびの起こりやすさが変わるという報告もあり、一定の支持を集めています。ただし、これもまだ決定的な結論ではありません。
共感説と、その揺らぎ
あくびが「うつる」理由として、長く有力視されてきたのが共感や社会性との関係です。他人の表情や状態を自分のことのように感じ取る働きが、あくびの伝染にもかかわっているのではないか、という考え方です。
この説を後押しする観察もあります。たとえば、見知らぬ人より家族や親しい友人のあくびのほうがうつりやすいという研究があります。また、子どもは生まれたときからあくびをしますが、他人のあくびがうつりやすくなるのは4歳前後からとされ、ちょうど他人の気持ちを読み取る力が育ってくる時期と重なります。
一方で、反対の結果も出ています。2014年に米デューク大学の研究チームが300人あまりを対象に行った実験では、あくびのうつりやすさと共感性の強さのあいだに、はっきりした関係は見られませんでした。目立った傾向として表れたのは、年齢が高い人ほどうつりにくいということくらいで、それも個人差の一部を説明するにすぎなかったのです。
共感がまったく無関係だと決まったわけではありませんが、「あくびがうつる人は優しい人」と単純に言い切れるほど話は簡単ではない、というのが現在の正直なところです。
犬もインコも、つられてあくび
あくびの伝染は、人間だけのものではありません。チンパンジーでは仲間のあくびがうつることが報告されており、オオカミの群れでも観察されています。
身近なところでは、犬が飼い主のあくびにつられることを示した研究があります。興味深いのは、生後7か月未満の子犬ではほとんどうつらず、成長とともにうつりやすくなるという結果が出ていることです。人間の子どもと同じように、発達の段階が関係しているのかもしれません。
さらに、哺乳類以外ではセキセイインコでも、仲間のあくびがうつることを示す実験結果があります。一方で、ワタリガラスの若鳥を観察した研究では、はっきりした伝染は確認されませんでした。どの動物でうつり、どの動物でうつらないのか。その違いを調べることが、仕組みを解き明かす手がかりになると期待されています。
わからないことの面白さ
毎日のように繰り返しているのに、なぜ起こるのか、なぜうつるのかがはっきりしない。あくびは、私たちの体がまだ多くの謎を抱えていることを、ささやかに教えてくれる存在です。
群れで暮らす動物にとって、眠気や警戒の状態をそろえることに意味があったのではないか、という考えもあります。もしそうなら、つられてあくびをするたびに、私たちは祖先から受け継いだ「群れの合図」を交わしているのかもしれません。