利き手はなぜ生まれる?
決定的な理由は不明です。遺伝の影響は一部で、おなかの中での発達や環境も関わると考えられています。
10.6%
はさみ、急須、駅の自動改札、ノートのリング。身のまわりの道具の多くは、右手で使うことを前提に作られています。それだけ、右利きの人が多数派だということです。
けれども、なぜ人には利き手があり、しかもその多くが右なのでしょうか。毎日あたりまえのように使い分けている左右の手には、まだ解き明かされていない謎がたくさん残っています。
左利きは、およそ10人に1人
左利きの人はどれくらいいるのでしょうか。2020年には、世界の200件の研究、合わせて約240万人分のデータをまとめた大規模な分析が発表されました。
それによると、左利きの割合は「左利き」をどう定義するかによって9%から18%ほどまで幅があり、最も妥当な推定値は約10.6%とされました。およそ10人に1人です。男性のほうが女性よりやや多い傾向も確かめられています。
地域によっても数字は違います。左手を使うことが好まれなかったり、子どものうちに右手へ直されたりすることが多かった社会では、左利きの割合が低めに出ることが知られています。利き手には、生まれつきの性質だけでなく、文化の影響も表れているのです。
人類は大昔から右利きだった
右利きが多いという傾向は、最近始まったものではありません。
手がかりになったのは、ネアンデルタール人の歯です。彼らは肉などを口にくわえて片手で引っぱり、もう一方の手に持った石器で切り取っていたと考えられています。そのとき石器が滑って前歯の表面についた細かな傷の向きを調べると、どちらの手で石器を持っていたかがわかります。分析の結果、そのほとんどが右利きだったことが示されました。
ほかの動物にも、個体ごとに「よく使う手足」があることは珍しくありません。しかし、集団の大多数が同じ側に偏るという点で、人ほどはっきりした例は珍しいとされています。言葉を扱う働きが脳の左側に偏っていることと関係があるのではないか、という説もありますが、両者の関係は単純ではないようです。
おなかの中で、もう始まっている
利き手はいつ決まるのでしょうか。生まれたあとの経験で身につくものだと思われがちですが、どうもそうではないようです。
北アイルランドの研究者らは、超音波検査でおなかの中の赤ちゃんの様子を観察し、およそ9割の胎児が右手の親指をしゃぶっていることを報告しました。さらに、どちらの指をしゃぶっていたかを記録した子どもたちを10〜12歳になるまで追跡すると、右の親指をしゃぶっていた子は全員が右利きになっていたといいます。
妊娠10週ごろの胎児でも、左右の腕の動きに偏りが見られるとの報告があります。腕の動きを細かくコントロールする脳の仕組みが十分に育つ前のことなので、利き手の始まりには、脊髄など脳以外の部分の発達もかかわっているのではないか、と考える研究者もいます。
遺伝だけでは決まらない
それなら、利き手は遺伝で決まるのでしょうか。双子や家族を対象にした研究からは、遺伝の影響は全体の25%ほどと見積もられています。決して小さくはありませんが、残りの大部分は遺伝以外の要因ということになります。実際、遺伝子がほぼ同じ一卵性の双子でも、一人は右利き、もう一人は左利きということは珍しくありません。
2021年には、約170万人分の遺伝情報を調べた研究で、利き手にかかわる遺伝子の領域が数十か所見つかりました。それでも、ひとつひとつの影響はごくわずかでした。たくさんの遺伝子の小さな影響に、おなかの中での発達のちょっとした偶然や、育つ環境が重なりあって、利き手は形づくられていくようです。
利き手は、「右か左か」を決めるひとつのスイッチではなく、たくさんの小さな要因の積み重ねで生まれる。