鳥肌はなぜ立つ?
毛の根元の小さな筋肉が縮むためです。毛深かった祖先の、体を温める仕組みのなごりと考えられています。
冬の朝、暖かい部屋から外へ一歩踏み出した瞬間。怖い話がいちばん盛り上がったところ。好きな曲のサビで、歌声がぐっと高くなったとき。腕の皮膚に小さなぶつぶつが一面に浮かび上がり、うぶ毛がふわりと立ち上がります。
日本語ではこれを、羽をむしった鳥の肌にたとえて「鳥肌」と呼びます。英語でも「グースバンプス(ガチョウのぶつぶつ)」と言いますから、似たような連想は言葉の壁を越えているようです。では、この現象は体の中で何が起きた結果なのでしょうか。
毛を立てる小さな筋肉
鳥肌の主役は、毛の1本1本の根元についている、ごく小さな筋肉です。**立毛筋(りつもうきん)**と呼ばれ、皮膚の中で、毛を包む毛包から斜めにのびています。
この筋肉が縮むと、斜めに寝ていた毛がぐっと引き起こされます。同時に毛の根元のまわりの皮膚が盛り上がり、表面にぶつぶつができます。これが鳥肌の正体です。
立毛筋を動かしているのは、自分の意思では動かせない自律神経のうち、体を緊張や興奮の状態に切り替える交感神経です。寒さを感じたときや、驚きや恐怖を感じたときに交感神経が働くと、全身の立毛筋がいっせいに縮みます。腕だけでなく、背中や足にまで鳥肌が広がるのはこのためです。
毛皮のコートのなごり
立毛筋は、毛におおわれたほかの哺乳類では、今もはっきりとした役割を果たしています。
ひとつは保温です。寒いときに毛を立てると、毛と毛のあいだにたくさんの空気がたまり、体のまわりに断熱の層ができます。冬の鳥が羽をふくらませて丸くなるのと同じ理屈です。
もうひとつは、相手に自分を大きく見せることです。敵に出会ったネコが背中の毛を逆立て、しっぽを太くふくらませる姿を見たことがある人も多いでしょう。ヤマアラシのとげも、もとは毛が変化したもので、危険を感じると逆立ちます。
ところが、人の体の毛はすっかり薄くなってしまいました。うぶ毛を立てても、暖かい空気の層はほとんどできませんし、相手を威嚇することもできません。人の鳥肌は、毛深かった祖先から受け継いだ仕組みが、役目をほぼ終えたあとも残っている「なごり」だと考えられています。
心が動いても鳥肌が立つ
人の鳥肌には、ほかの動物にはあまり見られない、ちょっと不思議な特徴があります。感動したときにも立つことです。
音楽を聴いて背筋がぞくっとしたり、鳥肌が立ったりする体験は、多くの人が知っています。どれくらいの人が経験するかは調べ方によって大きく異なりますが、決して珍しいものではありません。こうした瞬間には、脳の中で快感や報酬にかかわる部分が活発に働いていることも報告されています。
もともと日本語の「鳥肌が立つ」は、寒さや恐ろしさで身の毛がよだつ様子を表す言葉でした。感動したときに使うのは比較的新しい用法とされていますが、体の反応としては、どちらも同じ交感神経のしわざです。強く心が揺さぶられたとき、体はそれを一種の「非常事態」として受け止めているのかもしれません。
ただのなごりではなかった?
役目を終えたと思われてきた立毛筋ですが、2020年、アメリカのハーバード大学などの研究チームが、マウスを使った興味深い研究を発表しました。
立毛筋につながる交感神経は、毛をつくるもとになる幹細胞にもつながっていて、寒さが続くと神経の働きが強まり、新しい毛が生えるのを促していたというのです。立毛筋は、その神経をつなぎとめる役割を担っていました。鳥肌は「今すぐ毛を立てる」反応であると同時に、「寒い時期に向けて毛を増やす」仕組みともつながっている可能性があるわけです。人でも同じことが起きているのかは、まだこれからの研究を待つ必要があります。