しゃっくりはなぜ出る?
横隔膜が急に縮み、直後に声帯が閉じるためです。何の役に立つのかは、まだ謎です。
68年
食事を急いでかき込んだあとや、炭酸飲料を一気に飲んだあと、突然「ヒック」と体が跳ねる。しゃっくりは、大人も子どもも、誰もが経験したことのある身近な現象です。
ところが、しゃっくりがどのように起きるのかはかなりわかってきた一方で、そもそも何のために起きるのかについては、いまも決定的な答えが出ていません。私たちの体は、目的のわからない動きを、ときどき律儀に繰り返しているのです。
「ヒック」の正体
しゃっくりの主役は、胸とおなかを仕切るドーム状の筋肉、**横隔膜(おうかくまく)**です。ふだんの呼吸では、横隔膜が縮んで下がることで肺がふくらみ、空気が吸い込まれます。
しゃっくりのときは、この横隔膜が本人の意思とは関係なく、急にけいれんするように縮みます。すると、のどの奥へ勢いよく空気が流れ込みます。そしてその直後、およそ0.035秒という一瞬のうちに、声帯のあいだのすき間が閉じて、空気の流れが急ブレーキをかけられます。このときに出るのが、あの「ヒック」という音です。
しゃっくりは、脳の奥にある脳幹を中継点とした反射だと考えられています。横隔膜を動かす横隔神経や、胃などの内臓とつながる迷走神経がこの反射の通り道になっています。
きっかけはさまざま
しゃっくりを引き起こすきっかけとしてよく知られているのは、早食いや食べすぎ、炭酸飲料やアルコール、熱いものや冷たいものを急にとることなどです。胃が急にふくらむと、すぐ上にある横隔膜や、近くを通る神経が刺激されるためだと考えられています。
また、大笑いしたときや、緊張や興奮でどきどきしたときにしゃっくりが出ることもあります。多くの場合、しゃっくりは数分から長くても数時間ほどで自然に止まります。
しゃっくりを止める方法として、息を止める、水を一気に飲む、驚かせてもらうといったものが昔から伝えられています。試してみる人は多いのですが、どれも確実に効くと科学的に証明されたものではありません。止まったように感じるのは、ちょうど自然に治まるタイミングと重なっただけ、ということも多いのかもしれません。
えら呼吸のなごり?
では、しゃっくりにはどんな意味があるのでしょうか。いくつかの仮説があります。
ひとつは、私たちの祖先がまだ水の中にいたころの名残だという説です。2003年に発表された仮説では、オタマジャクシがえらで呼吸するときの筋肉と神経の動きが、人のしゃっくりとよく似ていることが指摘されました。えらに水を送り込みながら、肺に水が入らないように入口を閉じる。その古い呼吸の仕組みが、脳の中にいまも眠っているのではないか、という考え方です。
もうひとつ注目されているのが、赤ちゃんとの関係です。しゃっくりは、まだお母さんのおなかの中にいる妊娠9週ごろの胎児にも見られることがわかっています。生まれたばかりの赤ちゃんも、よくしゃっくりをします。
2019年にイギリスのユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームは、新生児がしゃっくりをするたびに、脳に大きな反応が起きることを報告しました。研究チームは、しゃっくりが呼吸の筋肉の動きを脳に覚えさせる練習になっている可能性があると考えています。大人のしゃっくりは、成長の過程で役目を終えた反射の名残なのかもしれません。
長く続くときは病院へ
ふつうのしゃっくりは心配のいらないものですが、まれに長く続くことがあります。医学的には、48時間を超えて続くものを「持続性しゃっくり」、1か月を超えるものを「難治性しゃっくり」と呼んで区別しています。
長引くしゃっくりの背景には、胃腸や神経の病気、薬の影響などが隠れていることがあります。2日以上止まらないときや、日常生活に支障が出るときは、自己流で何とかしようとせず、医療機関を受診するようにしましょう。
ギネス世界記録によると、最も長くしゃっくりが続いたのは、アメリカのチャールズ・オズボーンという男性です。1922年に始まったしゃっくりは、1990年まで68年間にわたって続いたとされています。