クマムシは宇宙でも生きられる?
乾燥して「乾眠」した状態なら、宇宙の真空に10日間さらされても生き延びました。ただし宇宙で暮らせるわけではありません。
道ばたのコケをひとつまみ取って水にひたし、顕微鏡でのぞいてみると、ずんぐりした体に短い脚を8本もつ小さな生きものが、のそのそと歩いていることがあります。クマムシです。
クマムシは、真空や放射線、極端な高温や低温にも耐えることから、「地上最強の生物」と紹介されることがあります。実際、生きたクマムシを宇宙空間にさらす実験も行われてきました。では、クマムシは本当に宇宙でも生きられるのでしょうか。
コケの中の「小さな水のクマ」
クマムシは昆虫ではなく、「緩歩動物」というグループに属する動物です。大人でも体長は0.5ミリほど。これまでに約1500種が知られ、海や湖のほか、陸上のコケや地衣類の中にもすんでいます。
陸のクマムシの強さの秘密は、「乾眠(かんみん)」と呼ばれる状態にあります。すみかのコケが乾くと、クマムシは脚を引っこめて体を縮め、小さな樽のような形になります。このとき、70%以上あった体の水分は3%以下にまで減り、生命活動はほぼ止まります。そして水を得ると、再び動き出すのです。
2007年、宇宙の真空へ
2007年9月、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が参加したロシアの無人衛星「フォトンM3」に、乾眠状態のクマムシが載せられました。スウェーデンのクリスティアンスタッド大学のインゲマル・ヨンソンさんらによる実験です。衛星は高度約260〜280キロメートルを回り、クマムシは10日間、むき出しのまま宇宙空間にさらされました。
結果は、驚くべきものでした。宇宙の真空にさらされただけのクマムシは、地上に残したクマムシとほとんど変わらない割合で生き返ったのです。地球に戻って水を与えられたクマムシは、卵を産み、その卵からは元気な子どもも生まれました。
ただし、太陽の紫外線は大きな壁でした。紫外線も一緒に浴びたクマムシは生き残る割合が大きく下がり、もっとも強い紫外線までまるごと浴びたグループでは、生き返ったのはオニクマムシという種のわずか3匹だけでした。それでも、宇宙の真空と太陽の紫外線の両方にさらされて生き延びた、初めての動物となったのです。
強いのは「眠っているあいだ」だけ
ここで気をつけたいのは、クマムシが強いのは、乾眠しているあいだに限られるという点です。水の中で動き回っているふだんのクマムシは、それほど丈夫ではありません。過酷な環境に「耐える」ことはできても、そこで食べたり増えたりして「暮らす」ことはできないのです。宇宙でも、乾いた状態でじっと耐えていただけでした。
その強さの仕組みの研究では、日本も活躍しています。札幌市の豊平川にかかる橋の上のコケから見つかった「ヨコヅナクマムシ」は、クマムシの中でも特に乾燥に強い種です。2016年、東京大学などの研究グループは、このクマムシのゲノムから、クマムシ特有の「Dsup」というタンパク質を発見しました。ヒトの培養細胞にDsupをつくらせると、X線によるDNAの傷が約40%減ったといいます。
月に落ちたクマムシ
2019年4月11日、イスラエルの民間の月探査機「ベレシート」が、着陸に失敗して月面に墜落しました。実はこの探査機には、乾眠させた数千匹のクマムシが、人類の知識を記録した「月の図書館」とともに積まれていました。
クマムシたちは月で生きているのでしょうか。2021年、イギリスの研究チームは、凍らせて休眠状態にしたクマムシを銃で撃ち出して砂にぶつける実験を行いました。秒速825メートルまでの衝突なら生き返りましたが、それより速いと体が壊れてしまいました。ベレシートの墜落の衝撃がこの限界を超えていたかどうかは、はっきりしていません。ただ、たとえ無事だったとしても、水のない月面では目を覚ますことはできません。